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2026.04.07 7.遺言

私に遺言書は必要?——相談会で一番多い質問に本音で答えます

私に遺言書は必要?——相談会で一番多い質問に本音で答えます

私に遺言書は必要?——相談会で一番多い質問に本音で答えます

相続の相談会でダントツに多いご質問があります。

「遺言書の書き方を教えてください」

「相続をおわりに。」司法書士の尾張です。

気持ちはよくわかります。でも、書き方より先に考えることがあります。
この記事では、「そもそも自分に遺言書が必要かどうか」を一緒に確認していきます。


目次

  1. 「書き方」より先に考えること
  2. 必要ない人もいる——まず正直に言います
  3. 7つのパターンをチェック
  4. パターン別の解説
  5. いつ書けばいい?
  6. まとめ

「書き方」より先に考えること

正直に言うと、遺言書の“書き方”自体は、そんなに難しくありません。「実現したい内容」+「日付」+「署名」+「押印」——この要件が揃っていれば、自筆証書遺言としては成立します。

ところが、これをお伝えすると、ほとんどの方が「えっ、それだけ?」と、全然納得のいかない顔をされます。

なぜか。本当に知りたいのは「書き方」ではないからです。多くの場合、本当に欲しいのは——

  • 漠然とした不安を解消したい
  • そもそも自分の場合、何が問題になるのかを知りたい
  • 「こう書いておけば大丈夫ですよ」と、専門家に太鼓判を押してほしい

——こういう気持ちなんです。だから「要件さえ揃えばOKですよ」だけでは、モヤモヤが残ってしまう。

そこで、実務家として私が一番大事だと思うのが、「現状の把握」と「将来の問題の可能性」です。今のご家族・財産の状況で、相続が起きたら実際どうなるのか。それを正確に分かったうえで、「どうしたいか・どう備えるか」を考える。順番は、ここからです。

そのうえで、遺言書で実現できることは、大きく2つです。

「思いの実現」と「問題の回避」

「財産はすべて妻に渡したい」という思いを実現すること。
「相続人の仲が悪くて手続きが揉めそう」という問題を回避すること。

この2つのどちらかが明確にある方には、遺言書が有効な手段になります。逆に言えば、これがなければ必要ないかもしれません。

書き方は手段にすぎません。「何のために書くか」「自分の場合どうなるか」が先です。


必要ない人もいる——まず正直に言います

遺言書のセミナーを終えた後の個別相談で、「ウチには必要ですか?」と聞いてくる方がいます。
その場で家族構成を聞いてみると——「親一人、子一人」のケースでした。

即答しました。「全くいりませんよ」

相続人は子どもだけ。話し合いの必要もなく、手続きは一本で終わります。

「そうなんだ、よかった!」とスッキリした顔でお帰りになりました。

遺言書は、すべての人に必要なわけではありません。
それなのに、ネットや広告で「遺言書は絶対に必要!ないと家族が大変なことに!」といった煽り気味の情報を目にして、不安になって相談に来られる方が、本当にたくさんいます。——実際には、必要のない方も少なくないのに、です。

まずは「本当に必要かどうか」を確認するところから始めましょう。


7つのパターンをチェック

以下のチェックリストで確認してみてください。

  • □ 子どもがいない夫婦である
  • □ 再婚していて、前の配偶者との間に子どもがいる
  • □ 子に障害があり、判断能力に不安がある
  • □ 相続人に行方不明・長年疎遠の人がいる
  • □ 相続人の間で、仲が悪い・折り合いがつかない事情がある
  • □ 主な財産が不動産で、相続人の間で分けにくい状況にある
  • □ 婚姻関係のないパートナー(内縁・事実婚)がいる

一つでも当てはまった方は、遺言書の必要性が高い可能性があります。
以下でパターン別に詳しく解説します。


パターン別の解説

① 子なし夫婦

「夫が亡くなったら、財産は全部妻に」——そう思っている方が多いですが、法律はそうなっていません。

子どもがいない場合、配偶者だけが相続人になるわけではないのです。
夫に子どもがいなければ、次の順番は直系尊属(父母・祖父母)
それもいなければ兄弟姉妹、さらに甥・姪に相続権が移ります(民法第889条)。

→ 法定相続人の順位の詳細は法定相続人とは?範囲・順位・相続分をわかりやすく解説で解説しています。

つまり、血のつながりのない義理の兄弟姉妹や甥姪と、お金の分け方の話をしなければならない状況が生まれます。向こうにも法律上の権利があるため、「渡したくない」では済まないケースもあります。

こういう状況が見えているなら、夫婦で相互に遺言書を書いて、どちらかが亡くなっても残った配偶者がすべてを受け継げるようにしておくのがベストです。

さらに、最終的に残ったほうも亡くなる場面を想定して、「その財産を誰に渡すか」まで決めておくと安心です。子なし夫婦の備えはお子さんがいないご夫婦こそ遺言書を——義理の兄弟と遺産の話し合い、できますか?したいですか?で詳しく解説しています。

ただし、ケースによっては片方だけで十分なこともあります。
以前、配偶者の兄弟姉妹ととても仲が良く、「あの人たちとは話し合えるから、自分だけ書けばいい」とおっしゃった方がいました。まさに「家庭の状況次第」という話です。

遺言書があれば:配偶者がすべてを受け継ぐことが明確になり、義理の親族との協議が不要になります。


② 再婚していて、前の配偶者との間に子がいる

離婚すると親権を失うことはありますが、相続権は消えません。
前婚の子は、現在の配偶者との子と同じく第1順位の法定相続人です。

遺言書がなければ、前婚の子と現在の家族が一緒に遺産分割の話し合いをすることになります。感情的なもつれも重なり、まとまらないケースが多いです。

遺言書で「現在の妻に全財産を相続させる」と書いておくだけで、この状況を大きく回避できます。前婚の子にもある程度渡したいという場合は、割合を指定してもOKです。再婚家庭の遺言の考え方は再婚していて前の結婚にお子さんがいる——遺言書が必要な理由を整理しますでも詳しく解説しています。

実際に相談に来られた方のケース

「前婚の子に少し、残りは現在の妻に」という内容の遺言書をすでに書いていて、「これでいいですか?」と持ってきた方がいました。

話を聞いてみると——「何十年も会っていないし、今更自分の存在を知らせたくない。でも権利があるから渡さないといけないと思っていた」とのことでした。

ここで大事な話をしました。

遺留分という制度があり、一定の相続人は最低限の取り分を請求できます。ただしこれは、遺留分権利者が自ら請求して初めて効力が生じる制度です(民法第1042条以下)。請求がなければ、支払い義務は生じません。

→ 遺留分の詳細・権利者の範囲・計算方法・時効は遺留分とは?よくある勘違いと遺言書作成時の考え方を解説をご覧ください。

「自分が死んでも、相手には知らせることもしてほしくない」とのことだったので、遺言書を書き換えました。内容は「すべての財産を配偶者に相続させる。配偶者が先に亡くなっていた場合は現在の子に」という内容です。

もう一点、この遺言書には遺言執行者を指定しませんでした。

遺言執行者は、就任後に遺言の内容をすべての相続人へ通知する義務があります(民法第1007条)。指定していなければ、その通知も発生しません。遺言執行者の使いようというのも、こういうところにあります(→遺言執行者とは?役割・義務・選び方を司法書士が解説)。

ただし、ここでもう一つ大事な注意点があります。自筆証書遺言を“そのまま”(法務局の保管制度を使わずに)残すと、亡くなった後に家庭裁判所での「検認」が必要になり、その際、裁判所から相続人全員(前婚のお子さんを含む)に検認期日が通知されます(民法第1004条)。つまり「執行者を指定しない」だけでは、知らせずに済ませることはできません。

知られずに進めたいなら、検認のいらない「公正証書遺言」か「法務局の保管制度」を使うのが前提になります。このあたりの遺言の種類による違いは遺言書の種類と選び方——自筆・公正証書・法務局保管を比較しますをご覧ください。

遺言書があれば:前婚の子との協議が不要になります。遺留分請求があった場合の対応は必要になりますが、少なくとも「全員での話し合い」の場を避けることができます。


③ 子に障害があり、判断能力に不安がある

相続手続きには、法定相続人全員の関与が必要です。お子さんに障害があり判断能力に不安がある場合、そのままでは遺産分割協議に参加できず、成年後見制度を使うことになります(詳しくは認知症への備え——成年後見と家族信託、制度の違いと使いどころ)。ただし成年後見は、遺産分割が終わった後も簡単には終われません。一度始まると、本人が亡くなるまで続く制度です。

遺言書で「誰が何を相続するか」を決めておけば、そもそも遺産分割協議をしなくて済み、成年後見をつけずに進められることがあります。障害のあるお子さんのための備えは、障害のある子がいるご家庭に遺言書をすすめる理由でより詳しく解説しています。

遺言書があれば:遺産分割協議そのものを避けられ、難しい立場のお子さんを手続きに巻き込まずに済むケースがあります。


④ 相続人に行方不明・長年疎遠の人がいる

相続人の中に行方がわからない人がいると、その人を抜きにして遺産分割を進めることはできません。家庭裁判所に不在者財産管理人を選任してもらい、管理人が代わりに関与する形になりますが、選任には時間がかかり、その後の管理も続きます。「長年連絡を取っておらず、今どこにいるかも分からない」というケースも、実務では珍しくありません。

こうした事情が見えているなら、遺言書で道筋をつけておくのが有効です。詳しくは疎遠・行方不明の相続人がいるなら遺言書を——手続きが止まる前にできることをご覧ください。

遺言書があれば:遺言書に記載された方だけで手続きを進められ、行方不明・疎遠の相続人を協議に巻き込まずに済むケースがあります。


⑤ 相続人の間で仲が悪い

家族といってもさまざまで、長年の中でいろいろな思いが積み重なっている場合もあります。

「あの人には多く渡したくない」「特定の人だけに多く渡したい」という希望がある場合もありますし、当事者たちが「きちんと話し合うつもり」でも、いざとなると感情がこじれてしまうこともあります。

仲が悪かったり、揉めるのが目に見えていたりするなら、事前に遺言書を書いておくことで、その揉め事を回避できます。

実際、当事務所にご依頼いただいた方の中にも、こんなケースがありました。親御さんの一方が亡くなったときの相続で揉めて、大変な思いをされた方が、「もう、あんな思いは嫌だ」ということで、残された親御さんに遺言書を書いてもらう手続きをご依頼くださったのです。

遺言書があれば、遺言の内容どおりに手続きを進められます。

遺言書があれば:相続人の感情に関わらず、遺言の内容が優先されます。「話し合い」の場そのものをなくせる場合があります。


⑥ 主な財産が不動産で分けにくい

「ウチは財産が少ないから揉めないよ」という方が多いのですが、問題になるのは財産の多寡より分けにくさです。

たとえば、残された財産が「長男が住んでいる実家(評価額1,000万円)」と「現金300万円」で、相続人は長男・次男の2人だったとします。

  • 長男が不動産をもらって、次男は現金300万円だけ?→ 不均衡
  • 長男が不動産を売って次男に350万円払う?→ 住む家がなくなる
  • 二人で共有にする?→ 将来また揉める原因になる

答えが簡単には出ません。

こういう場合には、「不動産は長男に相続させる。その代わり現金は次男に」と遺言書で決めておくか、「売却して分けなさい」と指定しておくかが現実的です。遺留分との兼ね合いや遺言執行者の準備も含めて、きちんと設計しておく必要があります。(実家を誰の名義にするかは実家の名義は誰にすべきか——配偶者か子世代か、本音で比較します、同居の子に残したい場合は同居の子に実家を残したい——遺言書がないと「売って分けて」になるかもも参考になります。)

遺言書があれば:「誰が何を相続するか」が決まっているため、分けにくい財産をめぐる争いを防ぎやすくなります。


⑦ 婚姻関係のないパートナーがいる

最近、事実婚や内縁関係のパートナーがいる方からのご相談も増えています。

結論から言うと、法律上の婚姻届を出していないパートナーには、相続権がありません。

どれだけ長く一緒に暮らしていても、どれだけ深い関係であっても、法定相続人にはなれないのです。遺言書がなければ、パートナーには一切財産が渡りません。

逆に言えば、遺言書さえあれば渡せます。
「○○(パートナーの名前)に全財産を遺贈する」と書いておくことで、法的に財産を渡すことができます。

ただし、亡くなる方に遺留分を持つ法定相続人(子・親、いれば配偶者)がいる場合は、遺留分侵害額の請求が来ることがあります。一方で、兄弟姉妹には遺留分がありません——相続人が兄弟姉妹だけなら、遺言ですべてをパートナーに渡しても遺留分の問題は起きません。いずれにせよ、その点も含めて設計しておく必要があります。

「籍を入れていないから、財産の話は関係ない」ではなく、「籍を入れていないからこそ、遺言書が必要」というケースです。詳しくは内縁・同性パートナーに財産を残したい——遺言書がないと1円も渡せませんをご覧ください。

遺言書があれば:大切なパートナーに、きちんと財産を渡すことができます。何もしなければ、その方の手には何も渡りません。


いつ書けばいい?

「遺言書はそのうち書こう」と思っている方へ、一点お伝えしておきます。

公正証書遺言は、公証役場に出向いて公証人に作成してもらいます。体力的・認知的に問題がある状態では難しくなります。

自筆証書遺言は、認知症が進んだ状態で書いたものは有効性を争われるリスクがあります。

どちらも、元気で判断能力がしっかりしているうちに書くのが鉄則です。

「必要になってから」では遅くなる場合があります。思い立ったときが、書き時です。

事業をされている方は、遺言書だけでなく生前からの対策が必要になるケースも多いです。早めにご相談ください。


まとめ

パターン 遺言書が必要な主な理由
子なし夫婦 配偶者に全部いかない。義理の親族との協議が発生する
再婚・前婚の子あり 前婚の子も相続人。感情的な対立になりやすい
子に障害がある 遺産分割に成年後見が必要に。遺言で協議自体を避けられることも
行方不明・疎遠の相続人 不在者財産管理人が必要。手続きが止まりがち
相続人間が不仲 協議が難航。弁護士費用が財産を上回ることも
不動産中心の財産 分けにくさが争いの原因になる
内縁・事実婚のパートナーあり 相続権ゼロ。遺言書がなければ何も渡せない

遺言書は「争いを防ぐ」ためだけでなく、「自分の思いを実現する」ための書類です。

「書き方」を覚えることより、「何を書きたいか」を考えることが先です。
その整理のお手伝いから、当事務所は対応しています。

→ 遺言書の種類(自筆・公正証書・法務局保管)の違いと費用については遺言書の種類と選び方——自筆・公正証書・法務局保管を比較しますで解説しています。


相続をおわりに。

「うちの場合はどうなんだろう?」と思ったら、まずはお気軽にご相談ください。

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【執筆者】
司法書士尾張由晃 司法書士法人せと事務所代表
愛知県司法書士会 登録番号:第1981号
蟹江町在住、実務歴10年以上。同じ地元民として、単なる事務作業ではない「生涯に寄り添うサポート」をお約束します。

司法書士尾張由晃のプロフィール詳細はこちら


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参考

最終更新日:2026年6月8日

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