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2026.04.08 7.遺言

遺言書の種類と選び方——自筆・公正証書・法務局保管を比較します

遺言書の種類と選び方——自筆・公正証書・法務局保管を比較します

遺言書の種類と選び方——自筆・公正証書・法務局保管を比較します

「遺言書って、自分で書くのと、公証役場で作るのと、何が違うんですか?どれを選べばいいの?」——遺言書を考え始めた方から、とてもよくいただくご質問です。

「相続をおわりに。」司法書士の尾張です。

実は、遺言書の方式は民法上いくつもあります。
死亡危急者遺言(余命わずかな方向け)や海難遺言(船が沈みそうなとき用)なんてものも法律上は存在します。

でも、普通の生活を送っている方が実際に使えるのは3種類です。
どれを選ぶかによって、費用・安全性・残された家族の手間がまったく変わります。

結論を先に言うと、私は公正証書遺言をおすすめしています。
その理由も含めて、それぞれの特徴を正直にお伝えします。

→ そもそも遺言書が必要かどうかはこちらの記事をご覧ください。


目次

  1. 遺言書の種類は3つ
  2. 自筆証書遺言——費用はかからないが、リスクが多い
  3. 公正証書遺言——費用はかかるが、いちばん安心
  4. 法務局保管制度——「自筆+検認免除」だが片手落ち感がある
  5. 費用・手続きの比較表
  6. どれを選べばいいか
  7. まとめ

遺言書の種類は3つ

民法が定める遺言書の方式は複数ありますが(死亡危急者遺言・船舶遭難者遺言など)、
普通の生活を送っている方が実際に選べるのは次の3種類です。

種類 誰が作るか 費用 検認
自筆証書遺言 本人が自筆で作成 不要 必要(法務局保管を除く)
公正証書遺言 公証人が関与して作成 必要 不要
自筆証書遺言書保管制度 本人が自筆で作成し法務局に預ける 3,900円 不要

それぞれ、詳しく見ていきましょう。


自筆証書遺言——費用はかからないが、リスクが多い

作り方

自筆証書遺言とは、遺言者が全文・日付・氏名を自書し、押印した遺言書です(民法第968条)。

財産目録については、平成31年1月13日施行の民法改正により、パソコンで作成したものや通帳のコピー等を添付することも認められるようになりました(民法第968条第2項)。ただし、目録の各ページに署名・押印が必要です。

「書くだけ」なら、本当にこれだけです。ですが——専門家に頼まない場合、「何を書くか」を全部自分で考えなければなりません。 ここが、実は一番の難所です。

遺言書は、何のために作るのか。「何らかの問題が起きそうで、それを防ぐため」か、「自分の思いを実現するため」のどちらかです。ということは、(1)どこに問題があるのか、(2)どう解決するのか、(3)思いを実現するにはどう書けばいいのか——これを的確に見極めて、対処法を選ぶ必要があります。……正直に言うと、これはもう専門家レベルの作業です。

「子に半分ずつ」と書こうとした方の話

実際にあったご相談です。旦那さんはご健在、お子さんは二人。「特に揉めないと思うけど、先に分け方を決めて手間を減らしてあげたい。子ども二人に二分の一ずつ相続させる遺言を書きたいの」とおっしゃいました。

ほう、お子さんに半分ずつ。いい話です。……でも念のため、「旦那さんには無しでいいんですか?」と聞いてみました。すると——

「えっ、旦那にはまず全部いくでしょう?」

そう、この方は「配偶者がいれば財産はぜんぶ配偶者にいく」「その配偶者が亡くなってから、この遺言が効いてくる」と思い込んでおられたのです。でも実際は違います。お子さんがいれば、配偶者と子が一緒に相続人。「子に二分の一ずつ」とそのまま書いていたら、ご本人の“まず配偶者に”という思いとは真逆の結果になりかねませんでした。

法定相続人は誰か、相続分はいくらか、遺留分はどうか、ご夫婦の資産状況、ご家庭の事情、将来の変化、財産を渡す相手が存命か——これらを全部勘案しないと、そのご家庭に本当に合った遺言書にはなりません。書くこと自体は簡単でも、中身を詰めるのは、それくらい奥が深いのです。

メリット

とはいえ、自筆証書遺言にも良いところはあります。

  • 費用が一切かからない(紙とペンと印鑑だけ)
  • 思い立ったらすぐ書ける——公証役場の予約も証人も不要
  • 何度でも書き直せる
  • 誰にも知られずに作れる

「お金をかけず、今すぐ、こっそり」作れるのが最大の強みです。

デメリット

①検認が必要

法務局に預けていない自筆証書遺言が見つかった場合、
家庭裁判所での「検認」手続きが必要です(民法第1004条)。

検認とは、遺言書の現状を確認して偽造・変造を防ぐための手続きです。
収入印紙800円と、相続人全員への通知・出頭が必要になります。

検認が終わるまでの間、遺言書を開封して手続きを進めることができません。
急いでいるときは特に、ここで時間を取られます。

しかも、この検認の申立てを専門家に頼むと、それなりの費用がかかります。「遺言書はタダで書けた」と思っても、亡くなった後に検認を専門家へ依頼すれば、結局、最初から専門家に遺言書を作ってもらうのと同じくらいの費用がかかってくる——ということも珍しくありません。

②書き方を間違えると無効。有効でも“使えない”ことがある

まず、全文を自筆で書く・日付・署名・押印といった要件を一つでも間違えると、その遺言書は無効になる可能性があります(本文をパソコンで打ってしまった、日付が「〇年〇月吉日」で特定できない、など)。

やっかいなのは、要件を満たして“有効”でも、それだけでは安心できないことです。たとえば「蟹江の土地を長男に」のように財産の特定が不十分だと、金融機関や法務局がリスクを避けて手続きを受け付けてくれないことがあります。

「遺言書はあるのに手続きが進まない」となると、解決には調停・訴訟まで必要になることも。「書いたはずなのに、かえって家族が困る」——という残念なケースが、実務では少なくありません。

③紛失・隠滅のリスクがある

自筆証書遺言は、手元に保管している限り、誰かに捨てられてしまうリスクがあります。

自分に不利な遺言書を見つけた相続人が「なかったこと」にする——
現実には起きうる話です。
遺言書を隠したり捨てたりすることは相続欠格事由(民法第891条)にあたりますが、
「あったこと」を証明できなければ争いようがありません。

④本人が書いたかどうか争いになる

亡くなった後に「これは本人の字ではない」と主張されたとき、
それを反証するのは残された家族の手間になります。

公証人の関与がない以上、「誰が何を証明するか」の問題が生じやすいのです。

⑤認知症になってから書いたものは無効になる可能性がある

遺言書を作成するには、遺言能力(意思能力)が必要です。
認知症が進んだ後に書いたとして、無効を主張されることがあります。

「まだ元気なうちに書いておけばよかった」というご相談も何度か受けました。

自筆証書遺言が向いているケース

自筆が向いているのは、シンプルな動機のときです。

  • 「一度、どんなものか書いてみたかった」
  • 「財産の話というより、子どもへのメッセージを残したかった」

こういう目的なら、自筆で書くこと自体に意味があります。ただし、それを「法的に頼れる遺言書」として当てにするのは別の話だと思っておいてください。

逆に、向いていないのに自筆を選びがちなのが「お試し」です。「公正証書を作る前に、まず試し書きで考えを整理したい」——気持ちはわかります。でも、試し書きで止まっているうちに、認知症や急な体調の変化で“もう書けない”状態になることがあります。考えがまとまっているなら、お試しはせず、最初から公正証書を作ってしまうのが、結局いちばん早くて確実です。

そして、「子なし夫婦で義理の兄弟と揉めたくない」「再婚していて前婚の子と関係が複雑」——こうしたトラブル回避が目的なら、自筆証書遺言はおすすめしません。中身のちょっとした不備が命取りになるからです。

→ 実際に書く場合の要件・NGパターン・保管方法はこちらの記事をご覧ください。


公正証書遺言——費用はかかるが、いちばん安心

作り方

公正証書遺言は、公証人(裁判官・検察官等を経験した法律の専門家)が
遺言者の意思を確認しながら作成する遺言書です(民法第969条)。

作成の流れ:
1. 司法書士・弁護士等が遺言内容の原案を作成する
2. 証人2名を手配する(相続人・受遺者・未成年者等は不可)
3. 公証役場で公証人と面談し、内容を確認しながら作成する
4. 遺言者・証人2名・公証人が署名して完成(押印は不要)

原本は公証役場に保管され、遺言者には正本と謄本が交付されます。

証人について

証人2名には、なれない人が法律で決まっています(民法第974条)。未成年者のほか、推定相続人・受遺者と、その配偶者・直系血族はなれません。たとえば「長男に相続させる」遺言なら、長男はもちろん、長男の妻(お嫁さん)や長男の子(お孫さん)も証人にはなれないということです。意外と身内では足りず、手配に困りがちです。

当事務所にご依頼いただく場合は、私(司法書士)と事務員が証人を務めますので、証人探しで悩む必要はありません

メリット

①検認が不要

公証役場に原本が保管されているため、
家庭裁判所での検認手続きは不要です。
見つかればすぐに手続きに使えます。

②公証人が内容を確認してくれる

公証人は法律の専門家です。
「この書き方では意図が伝わらない」「この部分は無効になる可能性がある」
といった点をその場で指摘してくれます。

③紛失・偽造のリスクがない

原本が公証役場に保存されます。
万一、手元の正本を紛失しても、謄本を再発行してもらえます。

実際にあった話

相続手続きのご依頼で、ある遺言書をお預かりして内容を確認したときのことです。なんと、相続人の生年月日が1桁、間違って記載されていました。これだけで「遺言書として使えない」と言われかねません。正直、めちゃめちゃ焦りました。

すぐに、その遺言書を作成して署名している公証人に連絡したところ、「誤記だね」と。「誤記証明」という書類を発行していただき、金融機関も公証役場も無事に手続きできました

これがもし自筆証書だったら、訂正してくれる公証人もいませんから、手続きできなかった可能性があります。マジで公正証書遺言で良かった、と思った案件でした。

費用

公正証書遺言の手数料は「公証人手数料令」で定められています(令和7年〈2025年〉10月1日改正後の金額)。

ここで大事なのが、手数料は財産の総額で一発計算するのではなく、「財産を受け取る人ごと」に、その人がもらう価額で手数料を計算し、全員分を合算するという点です。

基本手数料(受け取る人ごと・目的価額別):

目的価額(一人がもらう額) 手数料
100万円以下 5,000円(※50万円以下は3,000円)
100万円超〜200万円以下 7,000円
200万円超〜500万円以下 13,000円
500万円超〜1,000万円以下 20,000円
1,000万円超〜3,000万円以下 26,000円
3,000万円超〜5,000万円以下 33,000円
5,000万円超〜1億円以下 49,000円

これに加えて、

  • 遺言加算:財産の総額が1億円以下のとき、13,000円を加算
  • 正本・謄本の交付手数料:書面なら1枚につき300円(合わせて数千円程度)

ここがポイント——渡す“人数”で変わります。

同じ財産3,000万円でも、渡し方で手数料が変わります。

  • 子1人に3,000万円すべてを相続させる場合
    → 基本手数料 26,000円 + 遺言加算 13,000円 + 正本謄本 約3,000円 = 約42,000円
  • 子2人に1,500万円ずつ相続させる場合
    → 基本手数料 26,000円 × 2人分 = 52,000円 + 遺言加算 13,000円 + 正本謄本 約3,000円 = 約68,000円

総額は同じ3,000万円でも、もらう人が増えると一人ひとりに手数料がかかるので、その分高くなります。正確な金額は財産の内容と渡し方で変わりますので、事前に司法書士にご相談いただければ試算します。

なお、公証役場に出向けない場合(入院中・体が不自由など)は、公証人に病院・ご自宅・老人ホーム・介護施設などへ出張してもらうことも可能です。ただしその場合、基本手数料に50%が加算されるほか、公証人の日当(1日2万円、ただし4時間以内なら1万円)と交通費(実費)がかかります。体が動けるうちに作っておくことを、強くおすすめします。

必要書類(作成時)

公正証書遺言の作成に必要な書類の主なものは以下の通りです:

  • 遺言者の印鑑証明書(発行後3か月以内のもの)
  • 遺言者の戸籍謄本
  • 相続人・受遺者(財産を受け取る方)の戸籍謄本または住民票
  • 遺贈する財産に不動産が含まれる場合:登記事項証明書・固定資産評価証明書
  • 証人2名の氏名・住所・生年月日・職業のメモ

当事務所にご依頼いただく場合、証人は私と事務員が務めます。


法務局保管制度——「自筆+検認免除」だが片手落ち感がある

概要

平成31年の法改正により、自筆証書遺言を法務局(遺言書保管所)に預ける制度が創設されました(法務局における遺言書の保管等に関する法律、令和2年7月10日施行)。

手数料は3,900円で、自筆証書遺言を預けると「検認が不要」になります。
また、紛失・偽造のリスクもなくなります。

費用を抑えながら検認を免除したい、という方向けの制度です。

正直なところ

使ってみると、「惜しい」制度だというのが率直な印象です。

理由は、法務局は遺言書の内容を確認してくれないからです。

預けるときのチェックは「自筆か」「日付があるか」「押印があるか」
といった形式的な確認だけです。

「この書き方では誰に何をあげたいのか伝わらない」
「この財産の特定方法は不十分で揉める可能性がある」
といった内容面のアドバイスはしてもらえません。

つまり、中身に不備があるまま保管されるリスクは残ります。検認が不要になっても、内容が無効では意味がありません。

結局、「中身の不備」という自筆証書と同じ弱点はそのまま。違うのは“紛失せず保管してくれる”ことと“検認が要らない”ことだけ——というのが正直な実感です。

ですから当事務所では、この制度を積極的に使うケースは多くありません。費用がかかっても、公正証書遺言の方が安心できる場面がほとんどです。


費用・手続きの比較表

項目 自筆証書遺言 公正証書遺言 法務局保管
作成費用 不要 数万円〜(財産額による) 3,900円(保管手数料)
検認 必要(収入印紙800円) 不要 不要
内容確認 なし 公証人が確認 なし(形式のみ)
紛失・隠滅リスク あり(捨てられる可能性も) なし(原本保管) なし
不備で手続きできないリスク 高い 低い 高い
体力・外出が必要か 不要 必要(出張も可) 必要(法務局に持参)

どれを選べばいいか

迷ったら、公正証書遺言を選んでください。

費用はかかります。
でも、遺言書というものは「書いた後の何十年もの間、ずっと有効であり続けるもの」です。

書いた翌年に使う人もいれば、30年後に使う人もいます。
その間に「あのとき安く済ませたせいで…」とならないよう、
最初からきちんとした形で残しておくことが、
残される家族への最大の配慮だと思っています。

こんな場合は特に公正証書遺言をおすすめします:

  • 財産が不動産(実家・土地)を含む場合
  • 相続人が複数いる場合
  • 前婚の子・内縁のパートナーなど複雑な家族関係がある場合
  • 「揉めてほしくない」という気持ちがある場合

公正証書遺言の具体的な作成の流れ・証人の手配・文面の作り方については、
こちらの記事で詳しく解説しています。

なお、一度作った遺言書は何度でも変更できます。撤回・変更の方法はこちらの記事をご覧ください。


まとめ

  • 遺言書には自筆証書・公正証書・法務局保管の3種類がある
  • 自筆証書:費用ゼロだが、検認・処理不能リスク・紛失隠滅リスクがある
  • 公正証書:費用はかかるが、公証人が確認・検認不要・原本保管で安心
  • 法務局保管:検認免除で3,900円だが、内容の確認はしてもらえない
  • 迷ったら公正証書遺言。体が動けるうちに作るのが鉄則

相続をおわりに。

「うちの場合はどうなんだろう?」と思ったら、まずはお気軽にご相談ください。

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【執筆者】
司法書士尾張由晃 司法書士法人せと事務所代表
愛知県司法書士会 登録番号:第1981号
蟹江町在住、実務歴10年以上。同じ地元民として、単なる事務作業では
ない「生涯に寄り添うサポート」をお約束します。

司法書士尾張由晃のプロフィール詳細はこちら


参考:公的機関の一次情報
民法(e-Gov法令検索)
公証人手数料令(e-Gov法令検索)
法務局における遺言書の保管等に関する法律(e-Gov法令検索)
自筆証書遺言書保管制度(法務省)
公正証書遺言の手数料(日本公証人連合会)
遺言書の検認(裁判所)

最終更新日:2026年6月7日

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