「遺言書ってどうやって書くの?」というご質問、とてもよくいただきます。
「相続をおわりに。」司法書士の尾張です。
実は、遺言書の方式は民法上いくつもあります。
死亡危急者遺言(余命わずかな方向け)や海難遺言(船が沈みそうなとき用)なんてものも法律上は存在します。
でも、普通の生活を送っている方が実際に使えるのは3種類です。
どれを選ぶかによって、費用・安全性・残された家族の手間がまったく変わります。
結論を先に言うと、私は公正証書遺言をおすすめしています。
その理由も含めて、それぞれの特徴を正直にお伝えします。
→ そもそも遺言書が必要かどうかはこちらの記事をご覧ください。
目次
- 遺言書の種類は3つ
- 自筆証書遺言——費用はかからないが、リスクが多い
- 公正証書遺言——費用はかかるが、いちばん安心
- 法務局保管制度——「自筆+検認免除」だが片手落ち感がある
- 費用・手続きの比較表
- どれを選べばいいか
- まとめ
遺言書の種類は3つ
民法が定める遺言書の方式は複数ありますが(死亡危急者遺言・船舶遭難者遺言など)、
普通の生活を送っている方が実際に選べるのは次の3種類です。
| 種類 | 誰が作るか | 費用 | 検認 |
|---|---|---|---|
| 自筆証書遺言 | 本人が自筆で作成 | 不要 | 必要(法務局保管を除く) |
| 公正証書遺言 | 公証人が関与して作成 | 必要 | 不要 |
| 自筆証書遺言書保管制度 | 本人が自筆で作成し法務局に預ける | 3,900円 | 不要 |
それぞれ、詳しく見ていきましょう。
自筆証書遺言——費用はかからないが、リスクが多い
作り方
自筆証書遺言とは、遺言者が全文・日付・氏名を自書し、押印した遺言書です(民法第968条)。
費用は一切かかりません。思い立ったときにいつでも書けて、いつでも書き直せます。
財産目録については、平成31年1月13日施行の民法改正により、
パソコンで作成したものや通帳のコピー等を添付することも認められるようになりました(民法第968条第2項)。
ただし、目録の各ページに署名・押印が必要です。
デメリット
①検認が必要
法務局に預けていない自筆証書遺言が見つかった場合、
家庭裁判所での「検認」手続きが必要です(民法第1004条)。
検認とは、遺言書の現状を確認して偽造・変造を防ぐための手続きです。
収入印紙800円と、相続人全員への通知・出頭が必要になります。
検認が終わるまでの間、遺言書を開封して手続きを進めることができません。
急いでいるときは特に、ここで時間を取られます。
②書き方が不十分だと、金融機関・法務局が処理できない
遺言書そのものは有効でも、「蟹江の土地を長男に」のように財産の特定が不十分だと、
金融機関や法務局がリスクヘッジのために手続きを受け付けてくれないことがあります。
「遺言書があるのに手続きが進まない」となったとき、
解決するには調停・訴訟まで必要になることも。
「書いたはずなのに家族が困る」という残念なケースが、実務では少なくありません。
全文を自筆で書くという要件を満たさない部分があれば、そもそも無効になります。
③紛失・隠滅のリスクがある
自筆証書遺言は、手元に保管している限り、誰かに捨てられてしまうリスクがあります。
自分に不利な遺言書を見つけた相続人が「なかったこと」にする——
現実には起きうる話です。
遺言書を隠したり捨てたりすることは相続欠格事由(民法第891条)にあたりますが、
「あったこと」を証明できなければ争いようがありません。
④本人が書いたかどうか争いになる
亡くなった後に「これは本人の字ではない」と主張されたとき、
それを反証するのは残された家族の手間になります。
公証人の関与がない以上、「誰が何を証明するか」の問題が生じやすいのです。
⑤認知症になってから書いたものは無効になる可能性がある
遺言書を作成するには、遺言能力(意思能力)が必要です。
認知症が進んだ後に書いたとして、無効を主張されることがあります。
「まだ元気なうちに書いておけばよかった」というご相談も何度か受けました。
自筆証書遺言が向いているケース
「子なし夫婦で義理の兄弟と揉めたくない」「再婚していて前婚の子と関係が複雑」——
こういったトラブル回避が目的の場合は、自筆証書遺言はおすすめしません。
自筆が向いているのは、もっとシンプルな動機のときです。
- 「一度どんなものか書いてみたかった」
- 「財産の話というより、子どもへのメッセージを残したかった」
- 「公正証書遺言を作る前に、考えを整理するために試し書きしたい」
こういった目的なら、自筆で書くこと自体には意味があります。
ただし、それを「法的に有効な遺言書」として頼りにするのは別の話です。
→ 実際に書く場合の要件・NGパターン・保管方法はこちらの記事をご覧ください。
公正証書遺言——費用はかかるが、いちばん安心
作り方
公正証書遺言は、公証人(裁判官・検察官等を経験した法律の専門家)が
遺言者の意思を確認しながら作成する遺言書です(民法第969条)。
作成の流れ:
1. 司法書士・弁護士等が遺言内容の原案を作成する
2. 証人2名を手配する(相続人・受遺者・未成年者等は不可)
3. 公証役場で公証人と面談し、内容を確認しながら作成する
4. 遺言者・証人2名・公証人が署名して完成(押印は不要)
原本は公証役場に保管され、遺言者には正本と謄本が交付されます。
証人について
証人2名は、相続人や受遺者(財産を受け取る人)・未成年者はなれません。
当事務所にご依頼いただく場合、私(司法書士)と事務員が証人を務めますので、
証人の手配に困る必要はありません。
メリット
①検認が不要
公証役場に原本が保管されているため、
家庭裁判所での検認手続きは不要です。
見つかればすぐに手続きに使えます。
②公証人が内容を確認してくれる
公証人は法律の専門家です。
「この書き方では意図が伝わらない」「この部分は無効になる可能性がある」
といった点をその場で指摘してくれます。
③紛失・偽造のリスクがない
原本が公証役場に保存されます。
万一、手元の正本を紛失しても、謄本を再発行してもらえます。
実際にあった話
ある遺言書で、相続人の生年月日が1桁間違えて記載されていました。
「誤記証明」という手続きで公証役場が訂正してくれましたが、
もし自筆証書だったら、その一点で無効を主張されるリスクがありました。
公正証書だから、落ち着いて対処できた案件でした。
費用
公正証書遺言の手数料は「公証人手数料令」の別表に定められており、
相続させる財産の価額(目的価額)に応じて異なります。
基本手数料(目的価額ごと):
| 目的価額 | 手数料 |
|---|---|
| 100万円以下 | 5,000円〜7,000円 |
| 200万円超〜500万円以下 | 13,000円 |
| 500万円超〜1,000万円以下 | 20,000円 |
| 1,000万円超〜3,000万円以下 | 26,000円 |
| 3,000万円超〜5,000万円以下 | 33,000円 |
| 5,000万円超〜1億円以下 | 49,000円 |
これに加え、以下が加算されます:
- 遺言加算:遺言書の目的価額の合計が1億円未満の場合、13,000円を加算
- 正本・謄本交付手数料:1枚につき300円
- 証人手配料:司法書士に依頼する場合は別途
具体例:財産が不動産+預貯金で合計3,000万円の場合
– 基本手数料:33,000円
– 遺言加算:13,000円
– 正本謄本(仮に10枚):3,000円
– 合計目安:約50,000円前後
財産の規模や内容によって変わります。
詳しい費用は、事前に司法書士にご相談いただければ試算できます。
なお、公証役場に出向けない場合(入院中・体が不自由など)は、
公証人に出張してもらうことも可能です。
ただし、基本手数料が1.5倍になる上、日当(半日1万円・1日2万円)と旅費(実費)が加算されます。
体が動けるうちに作っておくことを、強くおすすめします。
必要書類(作成時)
公正証書遺言の作成に必要な書類の主なものは以下の通りです:
- 遺言者の印鑑証明書(発行後3か月以内のもの)
- 遺言者の戸籍謄本
- 相続人・受遺者(財産を受け取る方)の戸籍謄本または住民票
- 遺贈する財産に不動産が含まれる場合:登記事項証明書・固定資産評価証明書
- 証人2名の氏名・住所・生年月日・職業のメモ
当事務所にご依頼いただく場合、証人は私と事務員が務めます。
法務局保管制度——「自筆+検認免除」だが片手落ち感がある
概要
平成31年の法改正により、自筆証書遺言を法務局(遺言書保管所)に預ける制度が創設されました(法務局における遺言書の保管等に関する法律、令和2年7月10日施行)。
手数料は3,900円で、自筆証書遺言を預けると「検認が不要」になります。
また、紛失・偽造のリスクもなくなります。
費用を抑えながら検認を免除したい、という方向けの制度です。
正直なところ
使ってみると、「惜しい」制度だというのが率直な印象です。
理由は、法務局は遺言書の内容を確認してくれないからです。
預けるときのチェックは「自筆か」「日付があるか」「押印があるか」
といった形式的な確認だけです。
「この書き方では誰に何をあげたいのか伝わらない」
「この財産の特定方法は不十分で揉める可能性がある」
といった内容面のアドバイスはしてもらえません。
つまり、中身に不備があるまま保管されるリスクは残ります。
検認が不要になっても、内容が無効では意味がありません。
当事務所では、この制度を積極的に活用するケースは多くありません。
費用がかかっても、公正証書遺言の方が安心できる場面がほとんどです。
費用・手続きの比較表
| 項目 | 自筆証書遺言 | 公正証書遺言 | 法務局保管 |
|---|---|---|---|
| 作成費用 | 不要 | 数万円〜(財産額による) | 3,900円(保管手数料) |
| 検認 | 必要(収入印紙800円) | 不要 | 不要 |
| 内容確認 | なし | 公証人が確認 | なし(形式のみ) |
| 紛失・隠滅リスク | あり(捨てられる可能性も) | なし(原本保管) | なし |
| 不備で手続きできないリスク | 高い | 低い | 高い |
| 体力・外出が必要か | 不要 | 必要(出張も可) | 必要(法務局に持参) |
どれを選べばいいか
迷ったら、公正証書遺言を選んでください。
費用はかかります。
でも、遺言書というものは「書いた後の何十年もの間、ずっと有効であり続けるもの」です。
書いた翌年に使う人もいれば、30年後に使う人もいます。
その間に「あのとき安く済ませたせいで…」とならないよう、
最初からきちんとした形で残しておくことが、
残される家族への最大の配慮だと思っています。
こんな場合は特に公正証書遺言をおすすめします:
- 財産が不動産(実家・土地)を含む場合
- 相続人が複数いる場合
- 前婚の子・内縁のパートナーなど複雑な家族関係がある場合
- 「揉めてほしくない」という気持ちがある場合
公正証書遺言の具体的な作成の流れ・証人の手配・文面の作り方については、
こちらの記事で詳しく解説しています。
なお、一度作った遺言書は何度でも変更できます。撤回・変更の方法はこちらの記事をご覧ください。
まとめ
- 遺言書には自筆証書・公正証書・法務局保管の3種類がある
- 自筆証書:費用ゼロだが、検認・処理不能リスク・紛失隠滅リスクがある
- 公正証書:費用はかかるが、公証人が確認・検認不要・原本保管で安心
- 法務局保管:検認免除で3,900円だが、内容の確認はしてもらえない
- 迷ったら公正証書遺言。体が動けるうちに作るのが鉄則
相続をおわりに。
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【執筆者】
司法書士尾張由晃 司法書士法人せと事務所代表
愛知県司法書士会 登録番号:第1981号
蟹江町在住、実務歴10年以上。同じ地元民として、単なる事務作業では
ない「生涯に寄り添うサポート」をお約束します。
参考:公的機関の一次情報
– 民法(e-Gov法令検索)
– 公証人手数料令(e-Gov法令検索)
– 法務局における遺言書の保管等に関する法律(e-Gov法令検索)
– 自筆証書遺言書保管制度(法務省)
– 公正証書遺言の手数料(日本公証人連合会)
– 遺言書の検認(裁判所)
最終更新日:2026年4月27日
