内縁・同性パートナーに財産を残したい——遺言書がないと1円も渡せません
「籍は入れていないんですが、パートナーに財産を残したくて」
「相続をおわりに。」司法書士の尾張です。
内縁のパートナー、同性のパートナー——法律上の婚姻関係にない方に財産を渡したい場合、遺言書は必須です。遺言書がないと、どれだけ長く一緒に暮らしていても、1円も渡すことができません。
目次
- 内縁・同性パートナーには相続権がない
- 「特別縁故者」という制度があるが、非常に大変
- 遺言書があれば確実に渡せる——お互いに作る
- 予備的遺言まで準備する——どちらが先でも
- 最終的な財産の行き先を2人で決めておく
- 不動産がある場合と遺言執行者
- まとめ
内縁・同性パートナーには相続権がない
日本の民法では、相続権を持つ「配偶者」は法律上の婚姻関係にある人だけです(民法第890条)。
内縁の夫・内縁の妻、同性のパートナー——どれだけ長く一緒に生活していても、法律上の婚姻届を出していなければ「配偶者」ではありません。相続権は一切ありません。
一緒に暮らして、一緒に財産を築いて、一緒に家を買っていても——相続が発生した瞬間、パートナーは財産を1円も受け取れません。
財産はすべて法定相続人へ行きます。お子さんがいればお子さんへ、いなければ親へ、親もいなければ兄弟姉妹へ。パートナーが「もらえる立場」になる仕組みが、現行の法律にはありません。
「特別縁故者」という制度があるが、非常に大変
唯一の例外として、特別縁故者(民法第958条の2)という制度があります。亡くなった方と特別に縁が深かった人——生活を共にしていた内縁のパートナーなども、この制度で財産を受け取れる可能性があります。
ただし、この制度を使うには非常に大変な手続きが必要です。
まず、法定相続人が誰もいないことが前提になります。子・親・兄弟姉妹が一人でもいれば、特別縁故者として財産を受け取ることはできません。
仮に法定相続人がいない場合でも、家庭裁判所が相続財産清算人を選任し、官報で「相続人はいませんか?」「債権者はいませんか?」という公告を行い、その後「特別縁故者はいますか?」という公告を経て、家庭裁判所が認めて初めて財産を受け取れます。
時間も費用も相当かかります。しかも認められる保証もありません。
最初から確実に渡したいなら、遺言書を書いておく方がはるかに確実で、はるかに簡単です。
遺言書があれば確実に渡せる——お互いに作る
遺言書で「全財産を○○(パートナー)に遺贈する」と書いておけば、相続発生時にパートナーへ財産を渡すことができます。法定相続人がいても関係ありません。遺言書の通りに手続きが進みます。
ただし、遺留分(法定相続分の1/2)については、子や親から請求される可能性は残ります。兄弟姉妹には遺留分がないため、相続人が兄弟姉妹だけであれば遺留分の問題は生じません。
遺言書は2人でお互いに作っておくことをおすすめします。どちらが先に亡くなるかわからないからです。
片方だけが書いていた場合、書いていない方が先に亡くなると、残された方の財産については何の備えもないことになります。「あなたから私へ」「私からあなたへ」——2通の遺言書を用意しておくことで、どちらが先でも財産を託せます。
予備的遺言まで準備する——どちらが先でも
「全財産をパートナーに」という遺言書を作っても、パートナーが先に亡くなっていたら、その遺言書は効力を失います。財産は法定相続人に戻ります。
そのために予備的遺言を準備しておきます。
「全財産をパートナーに遺贈する。ただしパートナーが先に亡くなっていた場合は——」と、次の行き先まで指定しておくことで、どの順番で亡くなっても財産が意図した方向へ動きます。
予備的遺言の考え方について、詳しくは「予備的遺言とは——受取人が先に亡くなったとき、遺言書はどうなる?」をご覧ください。
最終的な財産の行き先を2人で決めておく
予備的遺言で「その次」を指定する際、2人でどうしたいかを話し合う必要があります。
- それぞれの家族に均等に残す(先に亡くなった方の兄弟姉妹、後に亡くなった方の兄弟姉妹に半分ずつ、など)
- 縁のある施設・団体・自治体に寄付する
よく考えてほしいのは、予備的遺言がない場合に何が起こるかです。
たとえばAさんとBさんのパートナーがお互いに「全財産を相手に」という遺言書を作ったとします。予備的遺言なしで、どちらが先に亡くなるかによって何が起きるか——
- Aさんが先に亡くなった場合:全財産がBさんへ→BさんはA・B両方の財産を持つ→Bさんが亡くなったとき「全財産をAさんに」の遺言は無効→Bさんの法定相続人に全財産
- Bさんが先に亡くなった場合:全財産がAさんへ→今度はAさんの法定相続人に全財産
死ぬ順番ひとつで、全財産がどちらの家族に行くかが決まります。 先に亡くなった方の家族には1円も行かない、ということが起こりえます。それが理不尽に感じるなら、予備的遺言でしっかり行き先を決めておく必要があります。
私、尾張が担当したケースでも、「自分たちの財産は特定の福祉団体に寄付したい」という2人の意向をもとに、予備的遺言まで含めた内容で遺言書を作成したことがあります。
不動産がある場合と遺言執行者
内縁・同性パートナーに不動産を渡したい場合、遺言執行者の指定が必須と考えてください。
法定相続人が相続する場合は、相続人が単独で登記申請できます。しかし内縁パートナー・同性パートナーへの遺贈は、法定相続人以外への財産移転です。この場合、一旦、法定相続人の名義に落としてから改めて遺贈の登記をするという手順が必要になります。
「自分たちはお金をもらえないのに、名義変更の手続きまでしなければならない」という状況になります。法定相続人が快く動いてくれるとは限りません。
縁のある団体への寄付を希望する場合も、登記の手順は同じです。その後さらに売却・換金・寄付の手続きが続きます。
そこで役立つのが遺言執行者です。遺言執行者を指定しておけば、不動産の名義変更・売却・換金・寄付の手続きをすべて遺言執行者が担うことができます。法定相続人の協力を必要とせずに、遺言書の通りに手続きを進められます。
遺言執行者の役割については「遺言執行者とは?役割・義務・選び方を司法書士が解説」で詳しく解説しています。
まとめ
- 内縁・同性パートナーは法律上の配偶者ではないため、相続権がない
- 一緒に財産を築いても、遺言書がなければ1円も渡せない
- 特別縁故者という制度はあるが、条件が厳しく手続きも大変
- 遺言書で「○○に遺贈する」と書けば確実に渡せる
- 2人でお互いに遺言書を作る——どちらが先でも対応できる
- 予備的遺言まで準備して、死ぬ順番による不公平を防ぐ
- 不動産がある場合は遺言執行者を指定しておくとスムーズ
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【執筆者】
司法書士尾張由晃 司法書士法人せと事務所代表
愛知県司法書士会 登録番号:第1981号
蟹江町在住、実務歴10年以上。同じ地元民として、単なる事務作業ではない「生涯に寄り添うサポート」をお約束します。
最終更新:2026年5月27日
