再婚していて前の結婚にお子さんがいる——遺言書が必要な理由を整理します
「前の結婚に子どもがいるんですが、遺言書って書いておいた方がいいですか?」
「相続をおわりに。」司法書士の尾張です。
結論から言うと、書いておいた方がいいケースが多いです。なぜそうなるのか、具体的な数字も交えて整理します。
目次
- 離婚した元配偶者には相続権がない——でも子どもには必ずある
- 前婚の子と今の家族が一緒に相続人になるとどうなるか
- 具体的な数字で確認——自宅2,000万円+現金1,000万円の場合
- 遺言書があればどう変わるか
- 遺留分——前婚の子には最低限の権利が残る
- 遺留分への対応は2つある
- 遺言執行者は慎重に
- 予備的遺言まで準備しておく
- まとめ
離婚した元配偶者には相続権がない——でも子どもには必ずある
まず前提の整理です。
離婚した元配偶者には、相続権はありません。離婚した時点で法律上の家族関係は終わりです。
ただし、子どもは別です。 離婚していようが、どれだけ疎遠になっていようが、血のつながった子どもの相続権は消えません。前の結婚で生まれた子どもも、現在の結婚で生まれた子どもも、法律上まったく同じ相続人です。法定相続分の割合にも差はありません。
前婚の子と今の家族が一緒に相続人になるとどうなるか
遺言書がない場合、相続が発生したら相続人全員で遺産分割協議をしなければなりません。
今の配偶者、今の家庭のお子さん、そして前の結婚のお子さん——全員が同じテーブルにつく必要があります。
前婚のお子さんと良好な関係を保っていて、話し合いができるなら問題ありません。でも、何十年も連絡を取っていない、お互いの顔も知らない、という状況も少なくありません。そういう場合に遺産分割協議を進めるのは、手続き的にも心理的にも、相当な負担になります。
さらに言うと、今の家庭のお子さんが腹違いのきょうだいの存在をまったく知らない、というケースも実際にあります。相続が発生して初めて「実はあなたにはきょうだいがいました」と告げられる——そのショックと、見知らぬ相手との手続きが同時にやってくる。遺言書がないと、残された家族にそういう状況を作ってしまうことになります。
具体的な数字で確認——自宅2,000万円+現金1,000万円の場合
こういう家族構成を想定します。
- 亡くなった方の財産:自宅2,000万円+現金1,000万円(合計3,000万円)
- 相続人:今の配偶者・前婚の子1人・今の家庭の子1人
法定相続分はこうなります。
| 相続人 | 法定相続分 | 金額 |
|---|---|---|
| 今の配偶者 | 1/2 | 1,500万円 |
| 前婚の子 | 1/4 | 750万円 |
| 今の家庭の子 | 1/4 | 750万円 |
自宅(2,000万円)は今の配偶者がもらうとして、現金1,000万円から前婚の子に750万円を渡す必要があります。残る現金は250万円。
今の家庭の子に渡せるお金は250万円です。 本来750万円の権利があるはずなのに、現金が足りない。そういう状況が起こりえます。
遺言書があればどう変わるか
「全財産を配偶者に相続させる」という遺言書があれば、遺産分割協議は不要です。
前婚のお子さんに連絡を取る必要もなく、今の配偶者が手続きを進められます。手続き上の問題はほぼ解消されます。
ただし、「遺留分」という問題が残ります。
遺留分——前婚の子には最低限の権利が残る
遺言書で「全財産を配偶者に」と書いたとしても、前婚のお子さんには遺留分という権利が残ります。
遺留分とは、法定相続分の1/2を下回る取り分しか得られなかった場合に、その差額を請求できる権利です(民法第1042条)。詳しくは「遺留分とは?よくある勘違いと遺言書作成時の考え方を解説」をご覧ください。
先ほどの例で言えば、前婚のお子さんの法定相続分は750万円。その1/2ですから、遺留分は375万円です。
「全財産を配偶者に」という遺言書があったとしても、前婚のお子さんから「375万円を請求します」と言われたら、支払わなければなりません。
遺留分への対応は2つある
遺留分への対応として、2つの方針があります。
① 遺留分を配慮した遺言書を作る
「前婚の子に375万円を相続させる。残りの全財産は配偶者に相続させる」という遺言書にしておきます。最初から遺留分を渡す内容にしておくことで、後から請求される心配がなくなります。
② 全財産を配偶者にする遺言書を作り、請求されたら払う
遺留分というのは、向こうが「請求する」と言ってきて初めて支払い義務が生じる制度です。請求しなければ払わなくてもよいのです。
前婚のお子さんとの関係次第では、そもそも請求してこない場合もあります。「とにかく今の家族の生活を守りたい」という判断であれば、全財産を配偶者に渡す遺言書を作っておき、請求があった時点で対応するという方針も選択肢のひとつです。
どちらが正解かは、依頼者さんの状況と判断によります。
体験談をひとつご紹介します。
「すでに遺言書を書いたので内容を確認してほしい」というご相談で来られたお客様がいらっしゃいました。前の家庭のお子さんに「100万円を相続させる」と書かれた公正証書遺言でした。前の家庭とは何十年も連絡を取っておらず、亡くなったことも知らせたくないとおっしゃっていました。
「なぜ100万円なんですか?」と聞くと、「権利があるから渡さないとまずいと思った」とのこと。
実は遺留分は向こうが請求してきたら払う制度であって、自動的に発生するものではありません。請求されなければ払わなくてよいのです。「知らなかった」とおっしゃったので、改めて「では本当はどういう内容にしたいですか?」と真意をヒアリングしました。状況と気持ちを整理した上でご提案し、想定できる問題を解消した内容で遺言書を作り直すお手伝いをさせていただきました。「見てもらってよかった」とおっしゃっていただけた案件です。
公証役場では「こう作りたい」とお伝えすれば、その通りに作ってもらえます。ただ、「なぜそう書きたいのか」「その内容で本当の意図が実現できるか」まで確認してもらえるとは限りません。私、尾張のところにご相談いただければ、真意と状況を聞いた上で「本当に作りたい遺言書」の内容を一緒に整理します。すでに遺言書をお持ちの方の内容チェックも承っています。
ちなみに、遺留分侵害額請求には時効があります。相続開始と遺留分の侵害を知った時から1年、相続開始から10年で消滅します(民法第1048条)。
また、「亡くなったことを知らせたくない」という方が遺言書に財産を書くと、逆効果になることがあります。
遺言書で前婚のお子さんに財産を渡す内容を書いた場合、相続が発生したら前婚のお子さんに連絡して渡す必要があります。知らせたくないのに、知らせざるを得ない状況になります。残さないという選択が、伝えたくないという気持ちと一致する場合もあるということです。
遺言執行者は慎重に
公正証書遺言を作成する際、公証役場から「遺言執行者を指定しておきましょう」と勧められることがよくあります。手続きをスムーズに進める上で有用な制度です。
ただ、今回のようなケースでは注意が必要です。
遺言執行者には、相続開始後に法定相続人全員に遺言書の内容と財産目録を通知する義務があります(民法第1007条第2項)。
ここで考えてほしいのは、「財産の金額を知られる」という問題だけではありません。
遺言執行者がいない場合、前婚のお子さんは相続が発生したことすら知らないままになる可能性があります。でも遺言執行者を指定すると、その方が必ず前婚のお子さんに通知します。財産の内容まで開示した上で。
寝ている子を起こすことになる——そういう状況です。遺言執行者を指定することで、何十年も連絡を取っていない前婚のお子さんが初めて相続を知り、遺留分を請求してくる、という流れになりかねません。
遺言執行者を指定する・しないは、状況に応じて慎重に判断してください。
遺言執行者の役割については「遺言執行者とは?役割・義務・選び方を司法書士が解説」で詳しく解説しています。
予備的遺言まで準備しておく
「全財産を配偶者に」という遺言書を作ったとして、配偶者が先に亡くなっていたらどうなるか。その遺言は無効になり、法定相続に戻ります。前婚のお子さんも含めた協議が、また必要になります。
そのために予備的遺言を準備しておきます。
「全財産を配偶者に相続させる。ただし配偶者が先に亡くなっていた場合は、○○(今の家庭の子など)に相続させる」——受取人が先に亡くなっていた場合の行き先まで指定しておくことで、どの順番で亡くなっても手続きが止まりません。
「配偶者の次は誰に渡すか」——今の家庭のお子さんにするのか、前婚のお子さんも含めて分けるのか。そこは各ご家庭の考え方によります。一緒に整理しながら文案を作っていきます。
予備的遺言については「予備的遺言とは——受取人が先に亡くなったとき、遺言書はどうなる?」で詳しく解説しています。
まとめ
- 離婚した元配偶者に相続権はないが、前婚の子どもには必ず相続権がある
- 遺言書がないと、前婚の子も含めた全員で遺産分割協議が必要になる
- 遺言書で「全財産を配偶者に」と書けば協議不要——ただし遺留分(法定相続分の1/2)は残る
- 遺留分は請求されたら払う制度。請求がなければ払わなくてよい
- 前婚の子に財産を書くと相続発生時に連絡が必要になる——知らせたくない場合は逆効果
- 遺言執行者をつけると財産内容が前婚の子に開示される——慎重に判断する
- 予備的遺言まで準備して、配偶者が先に亡くなった場合にも備える
「うちの場合はどうしたらいいか」は、状況によって変わります。まずご相談ください。
相続をおわりに。
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【執筆者】
司法書士尾張由晃 司法書士法人せと事務所代表
愛知県司法書士会 登録番号:第1981号
蟹江町在住、実務歴10年以上。同じ地元民として、単なる事務作業ではない「生涯に寄り添うサポート」をお約束します。
最終更新:2026年5月27日
