相続のためだけに成年後見人がつく!?——障害のある子がいるご家庭に遺言書をすすめる理由
「うちの子に障害があるんですが、相続のことが心配で……」
そういったご相談を、蟹江町でもよくいただきます。
「相続をおわりに。」司法書士の尾張です。
障害のある子がいるご家庭は、遺言書を書いておくメリットが大きいです。逆に書いていないと、相続手続きのためだけに成年後見人をつけなければならない状況が生まれることがあります。どういうことか、整理します。
目次
- まず確認——障害の程度によって話が変わります
- 未成年のうちは特別代理人——障害の有無に関わらず同じ
- 成年後、判断能力がない場合——成年後見人が必要になる
- 成年後見人がつくと何が起きるか——2つの問題
- 実際にいくら渡すことになるか——実家2,000万円+現金1,000万円の場合
- 遺言書があれば遺産分割協議が不要——成年後見人の選任も避けられる
- 夫婦両方で書く・予備的遺言まで準備する
- まとめ
まず確認——障害の程度によって話が変わります
「障害のある子がいるから遺言書が必要」と一概には言えません。相続手続き上の問題が生じるかどうかは、障害の内容によって変わります。
法的な判断能力があれば、問題ありません。 身体に障害がある、耳が聞こえない、話すことが難しい——こういった方でも、物事の意味や結果を理解して意思表示できるのであれば、遺産分割協議に問題なく参加できます。
問題になるのは、手続きへの参加が難しいケースです。 重い知的障害や精神障害があり、遺産分割の内容を理解して意思表示することが難しい場合、その方は法律上、協議に参加できません。
以下では、そういった方がいるご家庭を前提にお話しします。
未成年のうちは特別代理人——障害の有無に関わらず同じ
まず、お子さんがまだ未成年の場合から整理します。
父・母・障害のある子・障害のない子の4人家族で、お父さんが亡くなったとします。相続人はお母さん・障害のある子・障害のない子の3人です。全員で遺産分割協議をして、財産の分け方を決めます。
未成年のお子さんは、単独で遺産分割協議に参加できません。本来であれば親権者(お母さん)が代わりに手続きをしますが、ここで問題が起きます。お母さん自身も相続人なので、「お母さんが自分のために子どもの取り分を少なくする」ことができてしまう——利益相反になるのです。
この場合は、家庭裁判所に特別代理人の選任を申し立てます。特別代理人がお子さんの代わりに協議に参加します。
これは障害の有無に関わらず、未成年であれば同じ手続きです。 障害があっても未成年のうちは、手続きの内容として変わりません。
成年後、判断能力がない場合——成年後見人が必要になる
問題になるのは、お子さんが成年(18歳以上)になってからです。
同じ家族で、お子さんが大人になってからお父さんが亡くなった場合。相続人であるお母さん・障害のある子・障害のない子の3人が、それぞれの立場で遺産分割協議に参加しなければなりません。
しかし判断能力がなければ、法律行為である遺産分割協議には参加できません。家庭裁判所に成年後見人の選任を申し立てて、成年後見人が本人の代わりに協議に参加する必要があります。
成年後見人がつくと何が起きるか——2つの問題
成年後見の選任自体は可能です。ただ、実際につくと2つの問題が生じます。
なお、成年後見制度はもちろん有用な制度です。家族がいない、生活の支援が必要——そういった状況であれば、後見人は大きな助けになります。ここで問題にしているのは、一緒に生活して何も困っていないのに、相続の手続きのためだけに成年後見人をつけることになるという状況です。
① 亡くなるまでずっと続く
成年後見は、基本的に本人が亡くなるまで続きます。相続手続きが終わったら終わり、ではありません。
お父さんが60歳で亡くなり、障害のあるお子さんが30〜40代だとしたら、そこから40年・50年にわたって続くことになります。成年後見人への報酬も、その間ずっと発生し続けます。日常生活では何も困っていないのに、相続手続きのために始まった成年後見が生涯続いていく——これが多くのご家庭にとって、想定外の負担になります。
② 法定相続分を下回る遺産分割ができない
成年後見人には、本人の利益を守る義務があります。そのため、法定相続分を下回る遺産分割協議書への同意はできません。
「お母さんの生活を守るために全財産をお母さんへ」という家族の考えがあっても、成年後見人がついている場合はその通りにはなりません。
実際にいくら渡すことになるか——実家2,000万円+現金1,000万円の場合
具体的な数字で確認します。
先ほどの4人家族(父・母・障害のある子・障害のない子)で、お父さんの財産が次の通りだったとします。
- 実家:2,000万円
- 現金・預貯金:1,000万円
- 合計:3,000万円
相続人はお母さん・障害のある子・障害のない子の3人。法定相続分はお母さんが1/2、子が2人で残りの1/2を均等割りなので各1/4です。
障害のある子の法定相続分は3,000万円×1/4=750万円。成年後見人は、この750万円を確保しなければなりません。
実家をお母さんに渡すとして、現金1,000万円から750万円を障害のある子へ。残る現金は250万円。
お母さんの手元には、実家と現金250万円だけです。
もう1人の障害のないお子さんへの取り分は、現金が残っていなければ0円になる可能性もあります。
これが「遺言書なし」の場合に起こりうる現実です。
遺言書があれば遺産分割協議が不要——成年後見人の選任も避けられる
遺言書で「全財産を配偶者に相続させる」と書いておけば、遺産分割協議は不要です。
協議が不要ということは、成年後見人を選任する必要もありません。 相続手続きのためだけに成年後見が始まる、という状況を避けられます。
私、尾張がご相談を受けるとき、「遺言書があれば成年後見人をつけなくて済む可能性がある」というお話をすると、多くの方が「そうなんですか!」とおっしゃいます。遺言書のメリットは財産の分け方を決めることだけではありません。
夫婦両方で書く・予備的遺言まで準備する
遺言書は夫婦2人で書くことをおすすめします。どちらが先に亡くなるかわからないからです。
お父さんだけが遺言書を書いていた場合、お母さんが先に亡くなると、お父さんの遺言書は意味をなしません。お母さんの財産については、また遺産分割協議が必要になります。
夫から妻へ、妻から夫へ——2通の遺言書を用意しておくことで、どちらが先に亡くなっても協議なしで手続きが進みます。
さらに、予備的遺言も一緒に準備しておくことをおすすめしています。
両親がどちらが先に、どの順番で亡くなるかはわかりません。まず夫婦相互遺言で「一方が亡くなったら配偶者へ」という流れを作る。そして、両親ともに亡くなった後——つまり最終的に財産がどこへ行くか——まで想定しておくのが、予備的遺言の役割です。
このご家庭では、その「最終的な行き先」が重要になります。
障害のあるお子さんに多めに財産を渡して、その資産で生活していってもらうのか。それとも、世話を任せられるもう一人のお子さんに財産を託して、障害のあるお子さんの生活を支えてもらうのか。正解はありません。ご家族の状況や、お子さんの生活の見通しによって変わります。
こういった「その先の想い」まで含めて一緒に整理して、遺言書を作っていきます。詳しくは「予備的遺言とは——受取人が先に亡くなったとき、遺言書はどうなる?」もあわせてご覧ください。まずはご相談ください。
まとめ
- 相続で問題になるのは、判断能力がない障害のあるお子さんがいる場合
- 未成年のうちは特別代理人(障害の有無に関わらず同じ)
- 成年後で判断能力がない場合は成年後見人の選任が必要
- 成年後見は亡くなるまで続く。報酬も発生し続ける
- 成年後見人は法定相続分を下回る協議に同意できない——配偶者に全財産は渡せない
- 遺言書があれば遺産分割協議が不要——成年後見人の選任も避けられる
- 夫婦2人で書く。予備的遺言まで準備しておくと安心
「うちの場合はどうなるんだろう」と思ったら、まずご相談ください。状況を確認して、何が必要かをお伝えします。
相続をおわりに。
「うちの場合はどうなんだろう?」と思ったら、まずはお気軽にご相談ください。
📞 電話:052-209-6965(平日9:00〜18:00)
📱 LINE:こちら(24時間受付・相談無料)
📧 メール:owari@shihouseto.com
蟹江町で相続のことなら、蟹江町在住司法書士の私、尾張がすぐに対応いたします。
関連記事
- 予備的遺言とは——受取人が先に亡くなったとき、遺言書はどうなる?
- 私に遺言書は必要?——相談会で一番多い質問に本音で答えます
- 相続人に認知症の方がいる場合——遺産分割はどうなる?
- お子さんがいないご夫婦こそ遺言書を——義理の兄弟と遺産の話し合い、できますか?したいですか?
【執筆者】
司法書士尾張由晃 司法書士法人せと事務所代表
愛知県司法書士会 登録番号:第1981号
蟹江町在住、実務歴10年以上。同じ地元民として、単なる事務作業ではない「生涯に寄り添うサポート」をお約束します。
最終更新:2026年5月21日
