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おわりのひとくちメモ おわりのひとくちメモ
2026.06.08 7.遺言

遺言書に思いを書きたい——付言事項の効果と司法書士の本音

遺言書に思いを書きたい——付言事項の効果と司法書士の本音

遺言書に思いを書きたい——付言事項の効果と司法書士の本音

「法律的なことだけじゃなくて、気持ちも書いておいたほうがいいって聞いたんですが——」

遺言書を作っているとき、こうおっしゃる方は少なくありません。

「相続をおわりに。」司法書士の尾張です。

遺言書に思いを書くことは、できます。「付言事項(ふげんじこう)」といいます。ただ、正直に本音を言うと——“気持ち”を伝えたいだけなら、付言に書くより、生きているうちに直接話したほうがいい。 これが私の実務上の本音です。(一方で、“理由”を残す付言には、ちゃんと意味があります。これも後でお話しします。)

なぜそう思うのか。順番にお話しします。


目次

  1. 付言事項とは?——遺言書に書く「気持ち」の部分
  2. 「遺留分を請求しないで」と書いても、法的効力はない
  3. 「家族仲良くして」と書くときの落とし穴
  4. 付言が“活きる”のはこんなとき——書くなら「理由」を
  5. それでも書くなら、自分の言葉で
  6. 付言より、生きているうちに直接話すほうが大事
  7. 思いは「エンディングノート」という選択肢も
  8. まとめ

付言事項とは?——遺言書に書く「気持ち」の部分

遺言書は本来、法律上の効力を発生させて、問題を解決したり・回避したり、思いを実現したりするために書くものです。「誰にどの財産を渡すか」を法的に決める書面ですね。

でも、それ以外のことを書いてはいけない、という決まりはありません。

そこで、なぜこの内容の遺言書にしたのか/家族への思い/みんなへのメッセージ——こういった「気持ちの部分」を書き添えることができます。これが付言事項です。遺言書の本体(法律行為の部分)と区別がつくよう、「付言」と明記して書くことが多いです。

書き方に決まった様式はありません。そして大前提として、付言事項そのものに法律上の効力はありません。 あくまで「お願い」「メッセージ」です。


「遺留分を請求しないで」と書いても、法的効力はない

付言事項の話になると、本やネットでよく出てくるのが、こんな使い方です。

「こういう事情でこの遺言にしました。どうか遺留分の請求はしないでほしい
「どうか家族仲良くやっていってほしい」

——こう書いておけば、相続人の感情が収まって、争いが起きにくくなりますよ、と。

でも、実務でやっている私の本音は、ちょっと違います。

たとえば、こういうケース。

実家に一緒に住んでいたお子さんに、その家を相続させる。預貯金はほとんどない。 だから、家を相続するお子さん以外は、ほとんど財産をもらえない——そういう遺言です。

そこで付言に、こう書く。「他に財産がなくて申し訳ないけれど、どうか遺留分の請求はしないであげてほしい」。

ここで、ご自分の立場に置き換えて考えてみてください。

「書いてあったから、遺留分の請求をやめよう」と思う人は——そもそも、書いてなくても請求しない人じゃないでしょうか。逆に、請求したい人は、付言に何を書いてあっても請求します。

そもそも、付言に「請求しないでほしい」と書いても、法律上の効果はありません。それどころか、書いたことで、かえって相続人の感情を逆なですることもあります。文章でのやり取りは、言葉・電話・対面と違って、温度感がごっそり削ぎ落とされるもの。メールやLINEで気持ちがうまく伝わらず、かえってこじれた——そんな経験、ありませんか。あれと同じです。

短い付言の文章で、相手を完璧に納得させ、思いを過不足なく伝えきる——それは、正直かなり難しい。これが、私が現場で感じていることです。


「家族仲良くして」と書くときの落とし穴

もう一つ、よく勧められるのが「家族仲良くやっていってね」という一文です。

これも、お願い(付言)として書くぶんには問題ありません。 ただし、書き方には注意が必要です。

「家族仲良くしなければならない」のように、“義務”のニュアンスで、しかも財産を渡すことと結びつけて書くと——「負担付遺贈(負担付きの相続させる遺言)」と解釈されかねないのです。そうなると、「その負担(仲良くすること)が実現できなかったら、遺贈はどうなるのか」といった話に発展し、かえって遺言の足を引っぱるおそれがあります。

ですから、気持ちを書くなら、あくまで「お願い」だとはっきりわかる書き方にして、「付言」と明示しておくことが大切です。このあたりは、書き方ひとつでデリケートに変わります。

→ 「してほしいこと」を“条件”として正式に付けたい場合は、付言ではなく遺言で“してほしいこと”も頼める——負担付遺贈とはの形になります。あわせてご覧ください。


付言が“活きる”のはこんなとき——書くなら「理由」を

ここまで「過信は禁物」という話をしてきましたが、付言事項が本当に活きる場面もあります。たとえば、配分の「理由」を説明する/感謝を伝える/形見や愛蔵品の扱いの希望を残す——こうした、相手の腑に落ちることや、手続きの役に立つことを書くときです。同じ内容でも、遺言書に書いてあると、相続人は重く受け止めやすいものです。

公証人が書いた実務書——山田知司『ケース別 特殊な遺言条項——補充事項・付言事項、祭祀承継等』(新日本法規出版、2019年)——では、付言の“型”がいくつも挙げられています。代表的なものを、文例ごと引いてみます。

① 不平等な配分の「理由」を説明する

この遺言では、二男の次郎に他の者より多くの財産を渡しますが、これは次郎には妻子もおらず、病気のことも心配なので、生活に困らないようにしたものです。太郎と和子は、私の気持ちを汲んで、次郎をサポートしてあげてください。お願いします。
(同書104頁)

② 生前に援助した分(特別受益)を踏まえたことを伝える

長女△△には、自宅(××マンション○号室)を買う際、平成○○年○○月○○日に金1,500万円を□□銀行の△△の口座に振り込んで贈与しています。この遺言では、その分を考えて遺産を配分したものです。
(同書104頁)

これは、特別受益(生前の贈与)があったことの手がかりになり、他の相続人が「知らなかった」というすれ違いを防ぎます。遺留分や相続人どうしの感情の面でも、効いてくる一文です。

③ 素直な感謝を伝える

私は、妻や子供たちのお陰で幸せな一生でした。家族の皆には本当に感謝しています。ありがとうございました。特に永年苦楽を共にしてきた妻には感謝の気持ちで一杯です。
(同書106頁)

④ 形見・コレクション・先祖伝来の品の扱いを伝える
処分に困りがちな物こそ、「これは処分していい/これは残してほしい」と本人の思いが書いてあると、相続人はかえって助かります。

○○は、古くて実用的でないですが、先祖から伝来した物なので、これだけは次代に伝えていってください。他の物は処分してかまいません。
(同書106頁)

ここで大事なのは、これらが世間で言う“ふわっとした気持ち”だけではないということ。お願いや感謝もあれば、遺言や相続手続きを実現するうえで、実際に役に立つ・効果のある文言もあります。よく言われる「気持ちを書きましょう」より、ずっと幅が広いんです。

なお、この実務書、タイトルは「ケース別 特殊な遺言条項——補充事項・付言事項、祭祀承継等」ですが、収められた文例の多くは負担付遺贈や遺留分対策といった“法的効果のある”条項で、純粋に効力のない付言事項の例は、むしろ少数です。裏を返せば、「付言だけで結果を動かす」のは難しいということ。効果がほしい部分は、付言ではなく負担付遺贈などの“効く”手段で設計するのが筋です。

逆に、“義務”として書くと危険です。

  • ❌ 「長男は、長女の生活を生涯にわたって経済的に支えなければならない」
    → 前章のとおり、負担付遺贈と解釈されかねません。
  • ⭕ 「長男が長女を気にかけてくれると、父は安心です。」(お願い)

書くなら、この3つを押さえてください——①「理由」を添える ②あくまで「お願い」と分かるように ③【付言】と明記する。

こうした“効果を上げるための付言事項”であれば、当事務所でも作成のお手伝いをします。遺言の本体と合わせて、狙いどおりに効くよう一緒に設計します。

——一方で、効果や役立ちではなく、純粋に「伝えたい気持ち」を遺言に書きたいなら? それは話が別です。次にお話しするとおり、自分の言葉で書くのが筋になります。


それでも書くなら、自分の言葉で

「付言事項、書けますよ」とお伝えすると、こう言われることがあります。

「じゃあ先生、書いといてくれる?」

……いやいや、ちょっと待ってください。第三者の私が書いた“作文”が、ご家族の心に響くでしょうか。

私は、そのご家庭の事情を全部知っているわけでも、相続人お一人おひとりがどんな気持ちでいるかを分かっているわけでもありません。その私が「こういう事情なので遺留分の請求はしないでね」と書いたところで、借りものの言葉にしかなりません。正直、心に届く付言を自分で書ける方を、私は現実にほとんど見たことがないくらい、難しいものです。

そして、「じゃあ、ご自身で書いてくださいね」とお伝えすると——たいていは「あ、自分で書くんやったら……まあ、ええわ」という雰囲気になります。

ハッキリ言います。その程度の温度感なら、無理に書かなくていいと思います。

なぜなら、文面で残された言葉は、とても重いから。亡くなった後は、もう変えられない・直せない。本当に伝えたいことが、ご自身の中にちゃんとあって、自分で文章を整えて書ける——そういう方にだけ、付言事項はおすすめします。

そうやってご自身でバッチリ書いてくださったなら、こちらもバッチリ、遺言書として残すお手伝いをします。


付言より、生きているうちに直接話すほうが大事

これが、私の一番の本音です。

伝えたいこと・伝えるべきことがあるなら、できるだけ生きているうちに、口で話しておいてください。

付言事項は、原稿用紙にすればせいぜい1枚(400字)ほど。これを本気で書こうとすると、けっこう大変です。それよりも——

「こういうふうに分けようと思ってるんやけど、ええかな?」

と、10分でも20分でも、本人の口から話しておく。そのほうが、伝わる部分はずっと大きい。相続人とコミュニケーションを取っておく。これに勝るものはありません。

文章は、どうしても情報が削ぎ落とされます。声と、表情と、その場のやり取り——そこにしか乗らない「温度」があります。


思いは「エンディングノート」という選択肢も

「でも、話すのは照れくさい」「やっぱり何か書き残したい」——そういう方には、エンディングノートをおすすめしています。

付言事項は、遺言書の一部として残るぶん、重い。書き直しにも気を使います。その点エンディングノートなら——

  • 自由に、長く書ける(文字数の制約がない)
  • 何度でも書き直し・加筆できる
  • たいてい「家族への思いを書くページ」が用意されている

法的な効力はありませんが、気持ちを伝えるなら、むしろこちらのほうが向いています。

整理すると、「気持ちはエンディングノートへ、財産のことは遺言書でしっかり」——この役割分担が、私のおすすめです。

当事務所では、エンディングノートを無料でお渡ししています。「ほしい」とひと言いただければお渡ししますので、お気軽にどうぞ。

→ エンディングノートと遺言書の違い・使い分けはエンディングノート書いてるから遺言書いらない?——役割の違いを解説で詳しく解説しています。


まとめ

  • 付言事項=遺言書に書く「気持ち」の部分。法律上の効力はない(あくまでお願い・メッセージ)
  • 遺留分を請求しないで」と書いても効果は薄い。書いてあるからやめる人は、もともと請求しない人が多い
  • 家族仲良くしなければならない」のような“義務”寄りの書き方は、負担付遺贈と解釈されかねない。書くなら「お願い」と明示する
  • 付言が活きるのは「理由」や「感謝」を残すとき。書くなら①理由を添える②「お願い」と明示③【付言】と書く
  • 第三者(司法書士)が代筆した付言は、心に響かない。書くなら自分の言葉で、本気で
  • それより、生きているうちに10分でも口で話すほうが、よほど伝わる
  • 気持ちはエンディングノート、財産は遺言書——役割分担を。エンディングノートは当事務所で無料配布しています

遺言書そのものの内容は、もちろん一緒にしっかり考えます。「付言も書きたい」という方は、上の点だけ頭に置いて、ご相談ください。


相続をおわりに。

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【執筆者】
司法書士尾張由晃 司法書士法人せと事務所代表
愛知県司法書士会 登録番号:第1981号
蟹江町在住、実務歴10年以上。同じ地元民として、単なる事務作業では
ない「生涯に寄り添うサポート」をお約束します。

司法書士尾張由晃のプロフィール詳細はこちら


参考:公的機関の一次情報
民法(e-Gov法令検索)

最終更新日:2026年6月8日

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