相続した実家を売るときの税金——売買契約書1枚で数百万円変わることも
「相続した実家、住む人もいないし、売ろうと思うんです。何からやればいいですか?」
このご相談、本当によくいただきます。
「相続をおわりに。」司法書士の尾張です。
そして、この話をしていると、ほぼ決まって出てくるのがこの一言です。
「お父さん、お母さんの権利書がないんやけど、どうしよう…」
結論から言います。売るのに、昔の権利書はいりません。 その代わり、探してほしい「別の1枚」があります。それがあるかないかで、納める税金が数百万円変わってしまうこともあるんです。今日はそのお話をします。
目次
- 「実家を売りたい」——まず大前提、権利証はいりません
- 探してほしいのは「売買契約書」
- なぜ必要?売ると「譲渡所得税」がかかるから
- 取得費がわからないと損する——「概算取得費5%」のしくみ
- 税金がゼロになる特例もある
- 【体験談】登記を先に入れて190万円損したご家族
- だから「売る前・登記する前」に相談してほしい
- まとめ
「実家を売りたい」——まず大前提、権利証はいりません
まず、多くの方が誤解しているところから整理します。
「家を売るんやで、権利書がいるでしょ。それがないと困るがね」
蟹江町でも、こうおっしゃる方は本当に多いです。気持ちはよくわかります。でも、実際はこうです。
昔のお家を買ったときの権利書(登記済証・登記識別情報)は、相続登記でも不動産の売却でも、基本的に使いません。 なくても手続きは進みます。
なぜかというと、相続による名義変更は「亡くなった事実」と「相続人であること」を戸籍で証明して行うもので、権利書を使う場面がないからです。
→ 権利証がなくても相続登記ができる理由は「権利証が見つからない」——相続登記に権利証はいる?いらない?で詳しく解説しています。
だから、権利書が見つからなくても、慌てる必要はありません。問題は、そっちではない別の書類なんです。
探してほしいのは「売買契約書」
探してほしいのは、お父さん・お母さんがそのお家や土地を「いくらで買ったか」がわかる書類です。具体的には次のようなものです。
- 不動産の売買契約書(土地・建物をいくらで購入したか)
- 建築請負契約書(建物をいくらで建てたか)
- 購入時の領収書、仲介手数料の明細 など
「それって権利書のことじゃないの?」と聞かれることもあります。でも違います。
権利書には「誰から誰へ名義が移ったか」しか書いてありません。いくらで買ったか(売買代金)は書かれていないのです。だから、買った値段を証明するには、売買契約書という別の書類が必要になります。
では、なぜ「いくらで買ったか」がそんなに大事なのか。ここから税金の話に入ります。
なぜ必要?売ると「譲渡所得税」がかかるから
不動産を売って利益が出ると、その利益に譲渡所得税(譲渡所得に対する所得税・住民税)がかかります。
ポイントは、「売れた金額」全部に税金がかかるのではないということです。かかるのは、ざっくり言うと——
売った値段 − 買った値段 = 利益
この「利益」の部分に税金がかかる
という考え方です。だから「いくらで買ったか」がわからないと、利益が計算できず、税金が決まらないわけです。
相続した家は、原則「長期譲渡」になる
譲渡所得には、所有期間が5年を超える「長期譲渡」と、5年以下の「短期譲渡」があり、税率が大きく違います。
ここで大事なのが、相続した不動産は、亡くなった方(被相続人)が買った時期をそのまま引き継ぐというルールです(所得税法第60条第1項)。
つまり「相続したばかりだから短期譲渡」にはなりません。お父さん・お母さんが何十年も前に買った家なら、相続して売っても原則は長期譲渡として扱われます。
長期譲渡所得の税率は、国税庁の案内では所得税・復興特別所得税・住民税をあわせて20.315%とされています(国税庁 No.3208)。おおよそ「利益の2割」とイメージしておくとわかりやすいです。
※税率・税額は制度の概要です。実際の計算や特例の適用可否は、ご家庭の状況によって変わります。当事務所では提携の税理士をご紹介できますので、具体的な金額はそちらで確認いただけます。
取得費がわからないと損する——「概算取得費5%」のしくみ
では、肝心の「買った値段(取得費)」がわからないとどうなるか。ここが今日いちばん伝えたいところです。
買った値段を証明する書類がないと、原則として「売った値段の5%」を取得費とみなすことになります。これを概算取得費といいます(国税庁 No.3258)。
「0円で買ったわけがないだろう」ということで、せめて5%だけは取得費として認めてくれる、という制度です。逆に言えば、本当はもっと高く買っていても、証明できなければ5%しか引けないのです。
同じ土地でも、契約書1枚で180万円の差
具体例で見てみましょう。1,000万円で買った土地を、相続して2,000万円で売れたとします。
【売買契約書がある場合】
- 利益=2,000万円 − 1,000万円 = 1,000万円
- 税金=1,000万円 × 約20% = 約200万円
【売買契約書がない場合(概算取得費5%)】
- 取得費=2,000万円 × 5% = 100万円しか引けない
- 利益=2,000万円 − 100万円 = 1,900万円
- 税金=1,900万円 × 約20% = 約380万円
その差、約180万円。たった1枚の売買契約書があるかないかで、これだけ変わってしまうことがあるんです。
しかもこれは1,000万円の土地の話。もし3,000万円で買った土地だったら、同じ計算で差は約540万円にまで広がります。金額が大きくなるほど、契約書1枚の重みは増していきます。
※実際には、売却の仲介手数料や、相続登記をご依頼いただいた際の司法書士費用なども経費として差し引けます。ここでは考え方をシンプルにするため省いています。
先祖代々の土地は、あってもなくても変わらないことも
逆のケースもあります。先祖代々の田畑などで、昔の売買契約書が見つかっても「売買代金3万円」と書いてあった、というような場合です。
蟹江町は農地をお持ちのご家庭が多いので、これは実際によくあります。1,000万円で売れるなら、概算取得費の5%(50万円)のほうが大きい。この場合は、契約書があっても5%で計算したほうが得、ということになります。
つまり「探した契約書の金額」と「売値の5%」を比べて、大きいほうを使えるわけです。だからこそ、まずは探してみることが大事なんです。
見つからなくても、すぐに諦めないでください
「いくら探しても契約書が出てこない」——そういう場合でも、必ずしも5%で確定とは限りません。
- 購入当時のパンフレットや分譲時の価格表
- 住宅ローンを組んだときの金銭消費貸借契約書
- 購入代金を振り込んだ通帳の出金記録
こうした資料から、買ったときの金額を合理的に説明できる場合もあります。「契約書そのもの」がなくても、手がかりになりそうな書類が残っていないか、捨てる前に一度ご相談ください。諦めるのは、まだ早いかもしれません。
税金がゼロになる特例もある
相続した家の売却には、税金を大きく減らせる特例がいくつか用意されています。代表的なものを3つ紹介します。いずれも要件を満たし、確定申告をすることが条件で、自動では適用されません。
① 空き家特例(被相続人の居住用財産 3,000万円特別控除)
一人暮らしだった親が亡くなり、空き家になった実家を売る場合、要件を満たせば譲渡所得から最高3,000万円まで控除できます(国税庁 No.3306)。主な要件は次のとおりです。
- 昭和56年(1981年)5月31日以前に建てられた家であること
- マンションなどの区分所有建物ではないこと
- 相続の直前に、被相続人が一人で住んでいたこと
- 相続のときから売却まで、事業・貸付け・居住に使っていないこと(空き家のまま)
- 売却代金が1億円以下であること
- 相続開始日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ること
- 一定の耐震基準を満たすか、家を取り壊して売ること
令和6年(2024年)の改正で、買主が引渡し後の翌年2月15日までに耐震改修や取壊しをした場合でも適用できるようになり、使いやすくなりました。一方で、相続人が3人以上いる場合は、控除額が一人あたり2,000万円までに変わっています。
② マイホーム特例(居住用財産 3,000万円特別控除)
これは相続に限らず、自分が住んでいた家を売るときに、譲渡所得から最高3,000万円まで控除できる特例です(国税庁 No.3302)。
相続のケースでも、相続人自身がその家に住んでいた場合などに使える可能性があります。ここが後ほどの体験談につながる、とても大事なポイントです。
③ 取得費加算の特例
相続税を納めた方が、相続した不動産を相続開始の翌日から3年10か月以内に売った場合、納めた相続税の一部を取得費に加算できる特例です(国税庁 No.3267)。利益を圧縮できるので、その分税金が下がります。
ただし、この取得費加算の特例と、①の空き家特例は併用できません。 どちらが有利かは、ご家庭の数字次第です。
これらの特例は、要件の確認・必要書類の準備・確定申告までが一式必要です。「うちは使えそうかな?」という段階で、当事務所から提携税理士をご紹介し、私、尾張と連携して進めることができます。
【体験談】登記を先に入れて190万円損したご家族
ここからは、私、尾張が実際に立ち会った、忘れられないケースです。
お父さんが亡くなり、相続人はお母さんと、お子さん2人。実家を売って、その代金をみんなで分けたい、というご相談でした。お母さんはその家に長く住んでいて、お子さん2人は別で暮らしていました。
このご家族、本来であれば税金をゼロにできたんです。
本来できたはずの形
実家をお母さん一人の名義にまとめ、その代わりにお母さんがお子さんたちに現金を渡す——これを「代償分割」といいます。
こうしておけば、売却したときの利益は「お母さんが住んでいた家を売った」ことになり、②のマイホーム特例(3,000万円控除)が使えて、税金はゼロ。お子さんたちも、もらったのは「分割の代償としての現金」なので課税されません。家族全体で税金0円にできたはずでした。
→ この「誰の名義にするか」の判断は実家の名義は誰にすべきか——配偶者か子か、それぞれのリスクを比較しますでも解説しています。
実際に起きたこと
ところがこのご家族は、売却の登記だけを当事務所にご依頼でした。相続の名義変更は、すでにご自身たちで済ませてしまっていたのです。
しかもその名義は、法定相続分どおり(お母さん2分の1、お子さん4分の1ずつ)。この状態で2,000万円で売却したため——
- お母さんの持分(2分の1)→ 住んでいたのでマイホーム特例が使え、課税なし
- お子さん2人の持分 → 住んでいないのでマイホーム特例が使えず、しかも売買契約書もなく、それぞれ約95万円、合わせて約190万円の税金
お母さんの名義にまとめてさえいれば、払わずに済んだ税金でした。
取り返しがつかなかった理由
「じゃあ今から名義を直せば?」と思いますよね。でも、一度相続登記を入れた後で分け直すと、今度は相続人どうしの「贈与」とみなされ、贈与税の対象になってしまいます。さらに税金が増えるので、もう動かせません。
私、尾張としては「先に相談してもらえていたら…」と思いながら、何も言えずに手続きを進めるしかありませんでした。たった10万〜20万円の相談・登記費用をかけていれば、190万円は払わずに済んだ——本当にもったいないケースでした。
→ ご自身で相続登記をするリスクについては相続登記って自分でできますか?——司法書士の本音はこうですもあわせてご覧ください。
だから「売る前・登記する前」に相談してほしい
この体験談からお伝えしたいのは、ただ一つです。
実家を売るなら、相続登記を入れる前に、一度ご相談ください。
- 誰の名義にするか(代償分割・換価分割の選び方)
- 売買契約書が残っているか
- 空き家特例・マイホーム特例・取得費加算が使えそうか
これらは、名義を決めてしまう前なら選べるのに、後からでは取り返せないものばかりです。順番を間違えるだけで、何十万・何百万円が変わります。
「まだ売るかどうかも決まっていない」——それでも大丈夫です。「お母さんが住み続ける」なら、そのためのアドバイスもできます。何も決まっていない段階でのご相談こそ、いちばん損を防げます。
まとめ
| ポイント | 中身 |
|---|---|
| 権利証 | 売却・相続登記にはいらない。なくても大丈夫 |
| 売買契約書 | 探して。買った値段がわかると税金が下がる |
| 譲渡所得税 | 「売値 − 買値」の利益に課税。相続は原則長期譲渡 |
| 概算取得費5% | 買値が不明だと売値の5%しか引けず、税金が増える |
| 空き家特例 | 要件を満たせば3,000万円控除。要申告 |
| マイホーム特例 | 住んでいた家なら3,000万円控除。名義の決め方が鍵 |
| 取得費加算 | 相続税を納め3年10か月以内に売却。空き家特例とは併用不可 |
| いちばん大事 | 登記・名義を決める前に相談する |
まずは、ご自宅で売買契約書があるかどうかだけ探してみてください。あってもなくても構いません。それを持って、登記の前にご相談いただければ、損をしない順番をご案内できます。
なお、具体的な税額の計算や特例の適用可否については、当事務所の提携税理士をご紹介し、私、尾張と連携して進めます。税金の心配も含めて、まとめてお任せください。
相続をおわりに。
「うちの場合はどうなんだろう?」と思ったら、まずはお気軽にご相談ください。
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蟹江町で相続のことなら、蟹江町在住司法書士の私、尾張がすぐに対応いたします。
【執筆者】
司法書士尾張由晃 司法書士法人せと事務所代表
愛知県司法書士会 登録番号:第1981号
蟹江町在住、実務歴10年以上。同じ地元民として、単なる事務作業ではない「生涯に寄り添うサポート」をお約束します。
