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おわりのひとくちメモ おわりのひとくちメモ

お父さんが資産も借金も残した——どっちが多いかわからないとき、どうする?

お父さんが資産も借金も残した——どっちが多いかわからないとき、どうする?

お父さんが資産も借金も残した——どっちが多いかわからないとき、どうする?

「父親が亡くなって、財産はあるんですが、借金もあったらしくて。どっちが多いかわからないんです」

「相続をおわりに。」司法書士の尾張です。

相続で一番困るのは、「借金があること」ではなく「借金があるかどうかわからないこと」です。プラスとマイナスが混在している状態で安易に相続してしまうと、取り返しのつかないことになります。

調べる方法はあります。調べてもわからないときの制度も、ちゃんとあります。順番に確認していきましょう。


目次

  1. 「どっちが多いかわからない」——こういう状況はよくあります
  2. まず調べる——プラス財産の確認方法
  3. 借金を調べる——信用情報機関への照会
  4. 3ヶ月の壁——時間が足りないときの対処
  5. 調査が終わったら、どう決める?——相続の3つの選択肢
  6. 限定承認とは——プラスの範囲でだけ借金を払う
  7. 限定承認は「いいとこ取り」ではない——破産と同じ厳密さが必要
  8. 費用と現実——いくらかかる?相続人全員でやること
  9. 限定承認の「使い所」——規模と「残したい財産」で判断
  10. 実際の相談事例——他の事務所に断られた方
  11. まとめ

「どっちが多いかわからない」——こういう状況はよくあります

事業をやっていた方の相続、投資をやっていた方の相続——こうした場合に限らず、相続の場面で財産と借金の全体像が最初からはっきりわかることはまれです。

「お父さんは財産残しとったけど、借金もあったんじゃないかな」

こういう不安を抱えたまま相続の判断を迫られる状況は、どこのご家庭でも起こりえます。まずは財産と借金を調べるところから始めましょう。


まず調べる——プラス財産の確認方法

最初にやることは、プラス財産の全体像をつかむことです。

  • 預貯金:通帳・キャッシュカードをもとに、取引のある銀行に残高証明を請求します
  • 不動産:まず蟹江町役場の税務課で名寄帳(固定資産課税台帳)を取得します。被相続人が蟹江町内に持っていた不動産が一覧で確認できます。知らなかった不動産が出てくることもあります。別の市区町村に不動産がある可能性がある場合は、その役場にも申請が必要です。登記の詳細は名古屋法務局 津島支局で確認できます
  • 株式・投資信託:証券口座の存在は通帳の入出金明細から手がかりを探します。株・投資信託の相続手続きもあわせてご覧ください
  • 非上場株式・事業持分:評価が複雑です。税理士と連携しながら進めることをおすすめします

借金を調べる——信用情報機関への照会

プラスがわかったら、次はマイナス——借金の確認です。

日本には、個人の借入情報を管理する「信用情報機関」が3つあります。

機関 正式名称 主な加盟機関
CIC 株式会社シー・アイ・シー クレジットカード会社・信販会社
JICC 株式会社日本信用情報機構 消費者金融・クレジット会社
KSC 全国銀行個人信用情報センター(全銀協) 銀行・信用金庫・農協など

この3機関すべてに照会することで、金融機関からの借入の全体像がかなりつかめます。KSCには事業用の設備資金・事業運転資金も登録対象になっており、事業をやっていた方の借金調査には特に重要です。

照会の手続きと費用

各機関のウェブサイトから開示申請ができます。費用は各機関1,000円前後です。意外とリーズナブルです。

亡くなった方(被相続人)の情報は、相続人が戸籍謄本などを用意することで開示請求できます。本人以外でも手続きは可能ですので、ご安心ください。詳しくは各機関のウェブサイトをご確認ください。

信用情報に出てこない借金もある

信用情報機関に照会しても確認できないものもあります。

  • 連帯保証債務(他人の借金の保証人になっている場合)
  • 個人間の金銭の貸し借り(知人・親族からの私的な借金)

連帯保証については、公的に一括して確認できる手段がありません。遺品の書類、郵便物、通帳の入出金履歴を丁寧に確認していくことが、現実的な対処になります。


3ヶ月の壁——時間が足りないときの対処

相続の承認・放棄は、「自己のために相続の開始があったことを知った日から3ヶ月以内」に決めなければなりません(民法第915条第1項)。

信用情報の取り寄せ、財産の全容把握——これらを3ヶ月以内に終わらせるのが難しいケースもあります。

このときに使えるのが期間伸長の申立てです。

家庭裁判所に申立てを行うことで、この3ヶ月の期間を延ばしてもらうことができます。財産調査が終わっていない、判断がつかないといった事情があれば認めてもらえます。3ヶ月が近づいてきて焦っている場合も、まず私、尾張にご連絡ください。


調査が終わったら、どう決める?——相続の3つの選択肢

財産も借金も調べ終えたら、いよいよ「どう相続するか」を決めます。相続には、単純承認・限定承認・相続放棄の3つの選択肢があります。まずは全体像を表で。

選択肢 どういうもの メリット デメリット 向いている場合
単純承認 プラスもマイナスも全部引き継ぐ(何もしなければ自動でこれ) 手続き不要・費用ゼロ 借金も全部背負う 財産が借金を上回るのが明らかなとき/借金が無いとき
相続放棄 はじめから相続人でなかったことになる(家裁に申述) 借金を一切引き継がない プラスの財産ももらえない/次順位へ相続権が移る 借金が財産を明らかに上回るとき
限定承認 プラスの財産の範囲でだけ借金を払う(家裁に申述) 財産以上は借金を負担しない/残したい財産を残せる場合がある 手続きが重く費用も高い/相続人全員でやる必要/みなし譲渡所得税の問題 プラスとマイナスのどちらが多いか分からないとき/どうしても残したい財産があるとき

多くの方は、調べた結果「単純承認」か「相続放棄」で答えが出ます。 その“あいだ”を埋めるのが限定承認ですが、後で見るとおり手続きが重いので、使いどころの見極めが大切です。


限定承認とは——プラスの範囲でだけ借金を払う

信用情報を取り寄せ、財産調査もして、それでも借金の全体像がつかめないことがあります。そのときに使えるのが限定承認です。

民法第922条
「相続人は、相続によって得た財産の限度においてのみ被相続人の債務及び遺贈を弁済すべきことを留保して、相続の承認をすることができる。」

つまり、「プラスの財産の範囲でしか借金を払わなくていい」という承認の仕方です。

具体的な例で考えます。

お父さんが残した財産の合計が5,000万円。借金が4,000万円か7,000万円かわからない。

借金が4,000万円だった場合:
5,000万円 − 4,000万円 = 1,000万円のプラス。単純承認でも限定承認でも、1,000万円が手元に残ります。

借金が7,000万円だった場合:
– 単純承認をしてしまうと:財産5,000万円では足りず、自分の財産から2,000万円を払わなければなりません
– 限定承認を使っていれば:財産5,000万円を全額充てて終わり。超過する2,000万円は払わなくてよい

わからないまま単純承認して借金が上回っていたら、2,000万円を自腹で払う事態になります。それを防ぐのが限定承認です。

資産が1億円あって、借金が5,000万円か2億円かわからない——こういった大きな規模でも、同じ考え方で使えます。

どうしても残したい財産があるとき——「先買権」で守れる

限定承認のもう一つの使いどころが、「借金は怖いけれど、この不動産(や会社の株式)だけは手放したくない」というケースです。

ふつう限定承認では、相続財産を売却(換価)して債権者に配当します。でも相続人には先買権(せんばいけん)という権利があり、家庭裁判所が選んだ鑑定人の評価額を支払えば、その財産を競売にかけず手元に残せます(民法第932条ただし書き)。

現金2,000万円・不動産3,000万円(鑑定額)・借金1億円のケース
単純承認:財産5,000万円では足りず、差額5,000万円を自腹で負う
相続放棄:借金は背負わないが、大事な不動産も残らない
限定承認+先買権:現金2,000万円を返済に充て、不動産は先買権で3,000万円を支払って取得。弁済に充てるのは計5,000万円で、残る約5,000万円の借金は負担しなくてよい

手出しの3,000万円は痛く感じますが、その分時価3,000万円の不動産が自分のものになるので、差し引きはトントン。約5,000万円の借金を背負わずに、残したい不動産を守れたわけです。

⚠️ ただし大きな落とし穴があります。限定承認をすると、税務上は「被相続人が時価で財産を譲渡した」とみなされ(みなし譲渡所得・所得税法第59条)、その不動産が買った当時より値上がりしていれば、譲渡所得税がかかることがあります(相続開始から4か月以内の準確定申告が必要)。得したつもりが税金で目減りということもあるので、限定承認は税理士も交えて試算してから判断すべきです。当事務所では提携税理士と連携して対応します。


限定承認は「いいとこ取り」ではない——破産と同じ厳密さが必要

限定承認は「プラスだけもらえる便利な制度」と思われがちですが、実際は非常に厳密な清算手続きを伴います。

手続きの流れは以下の通りです。

  1. 相続人全員で家庭裁判所に申述
  2. 相続財産の財産目録を作成
  3. 申述受理後5日以内官報公告で全債権者に告知(「借金がある方は申し出てください」)
  4. 申し出た債権者に対して、財産を換価して弁済
  5. 残余財産があれば相続人が取得

官報公告の手続きは、破産の場合と同様です。すべての債権者に正式に告知し、財産を換価して弁済します。「この借金だけ払って終わり」とはいきません。

財産目録の記載漏れは致命的になりえる

ここで特に注意が必要な点があります。

財産目録に記載漏れがあった場合——故意に隠したとみなされると、限定承認の効力が失われ、単純承認とみなされるリスクがあります(民法第921条第3号)。破産における免責否認と同様の厳しさです。

限定承認の手続きに入ったら、財産の全容を正確に申告することが絶対条件です。そのためにも、財産調査は手続き前にできる限り徹底しておく必要があります。


費用と現実——いくらかかる?相続人全員でやること

限定承認には、相続放棄と比べてはるかに多くの手間と費用がかかります。主な内訳はこうです。

  • 家庭裁判所への申述:収入印紙800円+郵券(相続人1人あたり数百円)
  • 官報公告:4〜5万円程度
  • 不動産の鑑定:先買権を使う・換価する場合、鑑定人への報酬(数十万円規模になることも)
  • 競売になった場合の予納金:数十万円
  • 専門家報酬:申述だけなら十数万円〜、清算手続きまで頼むと着手金・報酬で数十万円〜(財産・負債の規模、相続人の数、難易度で変わる)

ここで誤解しないでほしいのが、限定承認は「申述して終わり」ではないということです。申述はスタートにすぎず、その後の清算(官報公告→債権者への弁済→財産の換価、場合によっては鑑定や競売)こそが本番。手間も費用も、その清算でかかります。

ですから、申述書類の作成だけなら十数万円程度でも、実際に最後までやり遂げると、総額で数十万円〜100万円規模になることも珍しくありません。相続放棄(実費数千円+報酬数万円程度)とは、手間も費用も桁が違います。

もう一点、非常に大切なことがあります。

限定承認は、相続人全員で行わなければなりません(民法第923条)。

相続人が3人いて、2人は限定承認したくても、1人が反対すれば使えません。相続人の中に連絡が取れない方がいる場合や、意見が合わない方がいる場合は、限定承認自体が難しくなります。

こうした重さを反映してか、実際の件数も限られています。

令和6年の司法統計によると、相続放棄の受理件数は約30万件
一方、限定承認の受理件数は約700件
相続放棄の400分の1以下です。

それだけ「使える場面が限られる制度」だということです。


限定承認の「使い所」——規模と「残したい財産」で判断

ここが実務上の判断の肝です。限定承認は「使える制度」ですが、「常に使うべき制度」ではありません。

財産が少額の場合

まず信用情報に照会します。照会の結果、借金がなければ単純承認。借金が判明して財産が上回っていれば、同じく単純承認。借金が財産を明らかに上回っていれば放棄を検討します。

照会して問題がなければそれで終わり——というケースが実際には多いです。

限定承認に数十万〜100万円規模の費用をかけるより、状況に応じて単純承認か放棄を選ぶ方が合理的な場面があることは、押さえておいてください。

財産が大きい場合——わからないままは致命的

財産が大きい場合は話が変わります。

資産が5,000万円あって、借金が4,000万円か7,000万円かわからない——このまま単純承認して借金が上回っていたら、数千万円単位の損失を自分で負うことになります。

それを避けるための100万円は、十分に意味がある費用です。

また、財産を大きく残せた方は、それだけ信用力もあったということです。大きな融資の保証人になっていた可能性、個人間の大きな借金が存在する可能性も、財産規模に応じて視野に入れておく必要があります。

財産が大きいほど、「わからない」という状態を放置することのリスクは大きくなります。 そこに限定承認の本当の使い所があります。

規模に関わらず——「残したい財産」があるとき

財産の大小とは別に、「どうしても手放したくない不動産がある」「継ぎたい事業(自社株)がある」という場合も、限定承認の出番です。先ほどの先買権を使えば、借金を全部は背負わずに、その財産だけを守れる可能性があります。「借金は整理したい、でも実家や会社は残したい」——そんなときは、限定承認を選択肢に入れて検討する価値があります(ただし、みなし譲渡所得税の試算は忘れずに)。


実際の相談事例——他の事務所に断られた方

私、尾張のところに、「ほかの事務所に断られた」と言って相談に来られた方がいました。

疎遠だったお父さんが亡くなり、ある日突然「あなたが相続人です」と知らされた。数百万円の預貯金があることは分かったものの、疎遠だったので、借金があるのかどうか分からず不安。そんなとき「限定承認」という制度があると知り、別の司法書士事務所に「できますか?」と問い合わせたところ、電話で「うちではやっていません」と断られた。それでウェブで限定承認について書いていた私を見つけて、相談に来られたのです。

そこで、こうお伝えしました。「限定承認は手続きが煩雑で、費用も時間もかかります。借金が心配というだけなら、まず信用情報の照会という方法がありますよ」と。すると——「そんなこと、ほかの事務所では教えてくれませんでした」

その方は「お得な制度があるなら使いたい」という程度のお気持ちだったので、「それなら、まず調査して、問題なければ単純承認で進めましょう」とご提案。財産・借金の調査からの相続手続きをご依頼いただき、無事に終わりました。

単純承認と相続放棄、その“あいだ”を埋める制度として限定承認があるのは、とても良いことです。でも、使える場面かどうかの判断も、使い方も、なかなか難しい制度でもあります。制度の説明から、本当に使うべきかどうかの見極めまで、お話を伺いながらご案内します。「限定承認って、うちは使えるの?」——そう思ったら、まずは気軽に相談に来てください。


まとめ

  • 借金があるかわからないときは、まず信用情報機関(CIC・JICC・KSC)に照会する(費用1,000円前後・相続人でも開示可能)
  • KSCには事業性融資も登録されている。ただし連帯保証・個人間の借金は出てこない
  • 連帯保証は公的な照会手段がない——遺品の書類・通帳を丁寧に確認する
  • 判断期限は3ヶ月。間に合わないときは期間伸長の申立て
  • 照会してもわからないときは限定承認(民法第922条)——財産の範囲でしか借金を払わなくてよい
  • 限定承認は破産に近い厳密な清算手続き。費用は申述だけなら十数万円〜、不動産の清算込みで数十万〜100万円規模になることも
  • 先買権(民法932条)で、残したい不動産・自社株を守れる場合がある。ただしみなし譲渡所得税(所得税法59条)に注意——必ず税理士と試算を
  • 財産目録の記載漏れは単純承認とみなされるリスクがある(民法第921条第3号)——正確な申告が必須
  • 相続人全員の同意が必要。一人でも反対すれば使えない
  • 財産が少額なら:信用照会→単純承認か放棄で対応できる場合が多い
  • 財産が大きいなら:わからないまま進むのは致命的。限定承認の出番
  • 複雑な案件でも、順番に進められます。まずご相談ください

相続をおわりに。

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📞 電話:0120-542-184(平日9:00〜18:00)
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【執筆者】
司法書士尾張由晃 司法書士法人せと事務所代表
愛知県司法書士会 登録番号:第1981号
蟹江町在住、実務歴10年以上。同じ地元民として、単なる事務作業ではない「生涯に寄り添うサポート」をお約束します。

最終更新:2026年6月7日

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