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2026.05.08 その他

3ヶ月を過ぎても相続放棄できる?——起算点は「死亡日」ではなく「知った日」から

3ヶ月を過ぎても相続放棄できる?——起算点は「死亡日」ではなく「知った日」から

「死亡してから3ヶ月を過ぎてしまっているんですが、もう相続放棄はできないですよね……」

こういってご相談に来られる方がいます。

「相続をおわりに。」司法書士の尾張です。

結論から言います。「死亡から3ヶ月」ではありません。 相続放棄の期限は「自分が相続人になったことを知った日」から3ヶ月です。これは条文に明記されていることで、思い込みで諦めてしまっている方が少なくありません。

ただし、3ヶ月を過ぎた後の相続放棄は、通常よりも「なぜその日まで知らなかったか」の説明が重要になります。その点をきちんと理解しておくことが、放棄を認めてもらうための鍵になります。


目次

  1. 条文が言っていること——「知った時」から3ヶ月
  2. 「知る」タイミングは人によって大きく違う
  3. 実際のケース——警察から連絡が来て初めて知った
  4. 3ヶ月を過ぎた後の申述——疎明が命
  5. 疎明資料の例
  6. 受理されなかったら——即時抗告という茨の道
  7. 例外的に認められたケース——最高裁の判例
  8. まとめ

条文が言っていること——「知った時」から3ヶ月

相続放棄の期限は、民法第915条第1項に定められています。

民法第915条第1項
「相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。ただし、この期間は、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所において伸長することができる。」

「相続が発生した日から」でも「被相続人が亡くなった日から」でもなく、「自分に相続が開始したことを知った日」からです。

「自己のために相続の開始があったことを知った時」というのは、①被相続人が亡くなった事実と、②自分がその相続人になったという事実——この両方を知った時点を指します。


「知る」タイミングは人によって大きく違う

同居していた家族であれば、亡くなったその日に「自分が相続人になった」と知ることになります。この場合、死亡日から3ヶ月が事実上の期限になります。

しかし、疎遠になっていた親族や遠縁の方が相続人になるケースでは、話が大きく変わります。

  • 何年も連絡を取っていなかった
  • 亡くなったことを誰にも知らされなかった
  • 先順位の相続人が全員放棄したことで、自分に相続権が回ってきた

こういった場合、死亡から1ヶ月・2ヶ月、あるいは数年経った後に初めて「自分が相続人だ」と知ることは珍しくありません。それが連絡を受けた日や通知が届いた日であれば、そこから3ヶ月が起算されます。


実際のケース——警察から連絡が来て初めて知った

私、尾張の事務所でこんなご相談がありました。

数年間まったく連絡を取っていなかった親族が亡くなり、警察から相談者に連絡が入りました。「そういえば死んでから数年経っているんですが、今さら相続放棄なんてできませんよね……」というご相談でした。

「死亡から数年経っている」というのは事実でしたが、相続人の方がそれを知ったのは警察から連絡が来た日です。

「知ったのは今日ですから、今日から3ヶ月以内に手続きをすれば相続放棄できます」とお伝えしたところ、「そうなの!?」と驚かれていました。

借金があるとわかっていたわけではなかったのですが、「あるかどうかわからないリスクを負いたくない」という理由で、相続放棄のご依頼をいただきました。無事受理されています。


3ヶ月を過ぎた後の申述——疎明が命

通常の相続放棄の申述書には、被相続人・相続人・申述日・放棄の理由(簡単なもの)を記載します。

しかし「死亡から3ヶ月を超えている」ケースでは、それだけでは裁判所が受理してくれない可能性があります。「なぜその日まで3ヶ月以上かかったのか」——その事情を、具体的な資料とともに説明する必要があります。

申述書に加えて別紙(事情説明書)を作成し、提出します。 裁判所が定めた様式はないので、一から文書を組み立てることになります。

事情説明書に書く内容の例:
– いつ・どのような手段で、相続が発生したことを知ったか
– なぜそれまで知らなかったのか(疎遠だった経緯など)
– 知った日付を裏付ける資料の説明

「様式がないから自分で書く」というのが実は一番の難所です。何を書けば裁判所に伝わるか、経験のない方がゼロから作るのはかなり骨が折れます。この点が、3ヶ月経過後の相続放棄でご依頼をいただくことが多い理由のひとつです。


疎明資料の例

「その日に初めて知った」ことを証明する資料は、状況によって変わります。実務で使われるものの例を挙げます。

知った経緯 疎明資料の例
警察から連絡が来た 警察署からの連絡文書・預かり品の案内の写し
行政(市区町村)から通知が来た 行政からの通知書
内容証明郵便で知らされた 内容証明郵便の写し(受取日が証明できるもの)
弁護士・司法書士からの通知 通知書の写し
先順位の相続人が放棄して回ってきた 前順位の相続放棄申述受理証明書と、その連絡を受けた日付がわかるもの

「知らせを受けた日」が客観的に証明できることが重要です。


受理されなかったら——即時抗告という茨の道

3ヶ月経過後の相続放棄の申述が受理されなかった場合、高等裁判所に即時抗告をするという手続きがあります。

ただし、これは非常に大変な手続きです。抗告状の作成、審理の対応、時間的・費用的なコスト——いずれも通常の相続放棄とは比べ物になりません。

だからこそ、最初の申述の段階で疎明を尽くすことが最も重要です。 「後で抗告すればいい」という発想は持たない方がよいです。一発目でしっかり認めてもらうために、事情説明書と疎明資料を丁寧に整えることに全力を注ぐべきです。


例外的に認められたケース——最高裁の判例

「3ヶ月以上前に知っていたが、それでも放棄が認められた」という例外的なケースも存在します。

代表的なのが、最高裁判所昭和59年4月27日判決(民集38巻6号698頁)です。この判決では、次の3つの要件をすべて満たす場合に、熟慮期間の起算点をずらすことができると判断されました。

① 相続財産が全く存在しないと信じたため、3ヶ月以内に放棄しなかった

② 被相続人の生活歴や相続人との交際状態などから見て、相続財産の有無の調査を期待することが著しく困難な事情があった

③ このように信ずることについて相当な理由がある

これらを満たす場合、「相続財産の存在を認識した時、または通常認識しうべき時」から熟慮期間を起算できる——というのがこの判決の内容です。

つまり「財産も借金もないと思っていたところに、数ヶ月後に突然大きな借金の請求が来た」という状況が、上記3要件に当てはまると判断されれば、その時点から3ヶ月として相続放棄が認められる可能性があります。


ただし、これは例外中の例外です。

この判決自体が最高裁まで争った事案です。つまり、裁判所で争い、時間をかけ、費用をかけた末に出た結論です。「例外があるから大丈夫」と思って動かないのは危険です。

大事なのはこの順番です。

  1. 相続が発生したら、まず財産と債務をしっかり調査する
  2. 3ヶ月以内に判断できそうにないなら、期間内に熟慮期間の伸長申立をする(→ A3 相続放棄の記事参照)
  3. それでも間に合わなかった・知らなかったという場合は、早めに専門家に相談する

例外に頼る前に、できることをやり切る——これが鉄則です。


まとめ

  • 相続放棄の3ヶ月は「自分が相続人になったと知った日」から(民法第915条第1項)
  • 死亡日から3ヶ月ではない。疎遠な親族・連絡が遅れた場合は、知った日が起算点になる
  • 3ヶ月経過後の申述では「なぜその日まで知らなかったか」の疎明が必要
  • 申述書に加えて別紙(事情説明書)を作成して提出する。様式がないので自分で作る必要がある
  • 疎明資料は「知った日付」を客観的に裏付けるもの(警察・行政の書面、内容証明郵便など)
  • 申述が受理されなかった場合は高等裁判所への即時抗告——非常に大変
  • だからこそ最初の申述で疎明を尽くすことが最重要
  • 例外的に「財産がないと信じたため知っていても放棄しなかった」ケースは最高裁判例で認められたことがある——ただし裁判まで争って出た結論。例外に頼らないことが大前提
  • とにかく、「もう無理かも」と思った段階で早めにご相談ください。その時点でのヤバさを判断してお伝えします

関連記事:
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相続をおわりに。

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【執筆者】
司法書士尾張由晃 司法書士法人せと事務所代表
愛知県司法書士会 登録番号:第1981号
蟹江町在住、実務歴10年以上。同じ地元民として、単なる事務作業では
ない「生涯に寄り添うサポート」をお約束します。

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参考:公的機関・一次情報
民法第915条(e-Gov法令検索)
相続の承認又は放棄の期間の伸長(裁判所)
– 最高裁判所第2小法廷昭和59年4月27日判決 民集38巻6号698頁

最終更新日:2026年5月8日

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