遺言で“してほしいこと”も頼める——負担付遺贈とは
「相続をおわりに。」司法書士の尾張です。
「この子(ペット)の世話をしてくれるなら、うちを譲りたい」
「全財産を甥っ子にやる代わりに、わしの葬式と後始末を頼みたい」
——こういうご相談、蟹江町でも実際にあります。「財産をあげる代わりに、〇〇してほしい」。この“条件付き”の遺言、ちゃんと法律で認められています。これを負担付き遺贈(ふたんつき いぞう)といいます。
ただ、「じゃあ何でも条件にできるの?」「ちゃんとやってくれなかったら?」「もらう側が大損したら?」——気になる点がいくつもあります。この記事で、仕組みと注意点を整理します。
目次
負担付き遺贈とは何か?
まず「遺贈(いぞう)」とは、遺言で財産を譲ることです。そして負担付き遺贈は、その遺贈に「この義務を果たすことを条件に」と“負担(義務)”をくっつけたものです。
例:「自宅を甥のAに遺贈する。ただしAは、私の死後、飼い犬ポチを、世話をしてくれる施設(団体)に引き渡すこと」
このとき、Aは家をもらえますが、引き換えに「ポチを世話してくれる団体へ託す」という義務を負います。これが負担付き遺贈です。法律にも、ちゃんと根拠があります。
民法第1002条第1項
「負担付遺贈を受けた者は、遺贈の目的の価額を超えない限度においてのみ、負担した義務を履行する責任を負う。」
『負担付遺贈』という言葉が条文に出てくるとおり、財産に義務をくっつけて譲るのは、法律で認められた正式な方法です(条文後半「価額を超えない限度」の意味は、のちほど④で説明します)。
ちなみに、財産を渡す相手によって言い方が変わります。
- 法定相続人以外(甥・友人・内縁の方など)に渡す → 「遺贈」
- 法定相続人(子・配偶者など)に渡す → 「相続させる」
法定相続人に対して負担を付けたい場合(例:「全財産を長男に相続させる。ただし長男は…」)も、実務上は行われています。考え方は負担付き遺贈と同じです。
※法定相続人への“負担付き相続”の細かい法的位置づけは見解が分かれる部分もあります。設計の際は、文言を慎重に整える必要があるので、専門家にご相談ください。
どんな内容を「負担」にできる?
「負担」にできる内容は、かなり幅広いです。私、尾張がこれまで関わった実例も交えて挙げます。
- 残されるペットの引き取り先の確保:「財産を渡す代わりに、ペットを世話してくれる施設・団体へ引き渡してほしい」。当事務所でも実際にありました。受け取る人が一生面倒を見るのは難しいので、“きちんと世話してくれる先へ託す”ことを負担にする形です。
- 障害のあるお子さんへの生活費:「健康なお子さんに多めに財産を渡す代わりに、障害のあるきょうだいへ毎月いくらを渡してほしい」という形。
- 死後の事務一切:身寄りの少ない方が、「甥に全財産を渡す代わりに、葬儀・納骨・各種解約などの後始末を頼む」というケース。
「畑も家も甥っ子にやるで、その代わり、わしが死んだ後のことぜんぶ頼むわ」
——こんなふうに、財産と“やってほしいこと”をセットにできるのが、この制度の便利なところです。
障害のあるお子さんがいるご家庭の備えについては、障害のある子がいるご家庭に遺言書をすすめる理由も、身寄りの少ない方の備えは子も兄弟もいない——亡くなった後の財産はどうなる?もあわせてご覧ください。
負担を守ってもらうには?——履行の確保
「条件を付けたのに、財産だけもらって、やってくれなかったら?」——いちばんの心配はここですよね。
対策の基本は、遺言執行者(遺言の内容を実現する役割の人)を決めておくことです。執行者が「ちゃんと負担を果たしているか」を見守ります。詳しくは遺言執行者とは?役割・義務・選び方を司法書士が解説をご覧ください。
それでも義務を果たさない場合、法律はこう定めています。
民法第1027条
「負担付遺贈を受けた者がその負担した義務を履行しないときは、相続人は、相当の期間を定めてその履行の催告をすることができる。この場合において、その期間内に履行がないときは、その負担付遺贈に係る遺言の取消しを家庭裁判所に請求することができる。」
つまり、①まず「ちゃんとやってください」と期限を切って催告 → ②それでもやらなければ、家庭裁判所に「遺贈を取り消してください」と請求できる、という流れです。
蟹江町の方の場合、この申立て先は名古屋家庭裁判所 本庁です(家庭裁判所の事件は、登記の津島支局ではなく本庁の管轄)。
負担の上限——もらった財産より多くは課せない
「条件付きで財産をもらったら、際限なく義務を負わされるの?」——いいえ。もらった財産の額を超えてまで、負担を負う必要はありません。
①で引用した民法1002条1項の「遺贈の目的の価額を超えない限度においてのみ」が、ここで効きます。つまり、負担の責任は「もらった財産の価値」が上限ということです。
具体例で見てみましょう。
1,000万円の財産を遺贈する代わりに、「障害のあるきょうだいへ毎月10万円を渡すこと」を負担にした場合。
月10万円 × 12か月 = 年120万円。これを続けると、約8年4か月でもらった1,000万円に到達します。
法律上は、ここを超えて支払う義務はありません。
そして、ここに遺言を書く側が見落としがちな落とし穴があります。受け取る側は、その遺贈を「いらない」と放棄できるのです(遺贈はいつでも放棄できます。民法986条)。
民法第1002条第2項(要約)
受遺者が遺贈を放棄したときは、負担の利益を受けるはずだった人が、自ら受遺者になることができる。
つまり——負担が重すぎて「もらっても割に合わない」と思われると、まるごと放棄されてしまう。そうなると「甥に頼みたかったのに、甥が受け取りを拒否」となり、あなたの“してほしいこと”が実現しません。「財産をあげるんだから、やってくれるだろう」は通用しないのです。相手にとっても受けるメリットがある=拒否されないバランスにしておくことが、実現の絶対条件になります(この点は次の⑤で)。
負担付き遺贈を設計するときのポイント
最後に、負担付き遺贈を“絵に描いた餅”にしないためのコツです。
- 渡す財産額と、負担の重さ・期間のバランスを試算する
負担が財産額を超える設計だと、上限ルールで途中から義務が消えます。「最後まで面倒を見てほしい」なら、財産額が足りるか先に計算を。 - 遺言執行者をセットで決める
誰も見ていないと、負担は果たされにくい。執行者を決めて、実現性を高めます。 - 受け取る側が「拒否しない」内容にする
いくら立派な負担を付けても、相手が放棄したら実現しません。相手にとっても受けるメリットがあるバランスが、実現のカギです。
「うちはペットが心配」「障害のある子の生活費を遺言で確保したい」——そんな思いがあれば、財産額と負担のバランスから一緒に設計できます。お気軽にご相談ください。
まとめ
- 負担付き遺贈=「財産を渡す代わりに〇〇してほしい」と義務を付けた遺贈
- ペットの世話・障害のある子への生活費・死後事務など、幅広い内容を負担にできる
- 守ってもらう仕組み=遺言執行者+、果たさなければ催告→家庭裁判所に遺言取消請求(民法1027条)
- 負担の責任はもらった財産の価額が上限(民法1002条1項)。受け取る側は放棄も選べる
- 設計のコツは「財産額と負担のバランス試算」「執行者の選任」「相手が拒否しない内容」
- 蟹江町の家庭裁判所の申立ては名古屋家裁 本庁
「財産と引き換えに、これだけは頼みたい」という思いは、遺言で形にできます。順番や文言を間違えると実現しないので、設計の段階でご相談ください。
相続をおわりに。
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参考
【執筆者】
司法書士尾張由晃 司法書士法人せと事務所代表
愛知県司法書士会 登録番号:第1981号
蟹江町在住、実務歴10年以上。同じ地元民として、単なる事務作業ではない「生涯に寄り添うサポート」をお約束します。
最終更新日:2026年6月6日
