遺言書と違う内容で遺産分割はできる?全員合意の条件
「相続をおわりに。」司法書士の尾張です。
「遺言書が出てきたんですが、この内容だと今の家族の状況に合わなくて……どうにかなりますか?」——そういうご相談を、弁護士さん経由でも、直接でも、ちょくちょくいただきます。
たとえば、何年も前に書かれた遺言書。当時とは家族の事情が変わっていて、書かれたとおりに分けると、かえって全員が困ってしまう——蟹江町でも実際にあるケースです。
結論から言うと、条件を満たせば「できます」。 遺言書は、必ずしも絶対ではありません。ただし、誰の合意がいるのか、どんな場合は覆せないのか、押さえておくべき条件があります。この記事で整理します。
目次
- 遺言書と違う遺産分割は、そもそもできるの?
- 合意が必要な「全員」とは誰のこと?
- 覆せないケース——受遺者・遺言執行者・「相続させる」遺言
- 実務では、どうやって手続きを進める?
- 遺言書を「書く側」が知っておくべきこと
- こういうケースは誰に相談すればいい?
- まとめ
遺言書と違う遺産分割は、そもそもできるの?
まず、いちばん気になるところからお答えします。
相続人全員が合意すれば、遺言書と違う内容で遺産分割をすることができます。
「え、遺言書ってそんなに簡単にひっくり返せるの?」と驚かれるかもしれません。理由はこうです。
遺言は、亡くなった方(被相続人)の意思を示すものです。とても大切なものですが、その遺言で利益を受けるのは、相続人や受遺者(遺贈を受ける人)です。その利益を受ける人たち全員が「いや、別の分け方でいきましょう」と納得して合意するなら、それを止める理由がない——という考え方です。
裏を返せば、一人でも「遺言書のとおりにしたい」と言えば、遺言書の内容に従うことになります。 あくまで「全員が合意したとき」に限られます。
合意が必要な「全員」とは誰のこと?
ここがいちばん大事なところです。「全員」の中身を間違えると、後から手続きがやり直しになります。
合意が必要なのは、次の人たちです。
- 相続人全員(相続放棄をした人は、はじめから相続人でなかった扱いになるので除きます)
- 受遺者——相続人以外で、遺言によって財産をもらう人がいる場合は、その人
- 遺言執行者——遺言書で「遺言執行者」が指定されている場合は、その人
このうち一人でも欠けると、遺言と違う分け方はできません。特に見落としやすいのが、後ろ2つ(受遺者・遺言執行者)です。次の章で詳しく見ます。
覆せないケース——受遺者・遺言執行者・「相続させる」遺言
「全員合意すればできる」と言いましたが、合意があってもそう簡単にはいかないケースがあります。3つ挙げます。
① 相続人以外の「受遺者」がいる場合
遺言で「友人のAさんに100万円贈る」のように、相続人ではない人に遺贈がされていることがあります。
この場合、Aさんがその遺贈を放棄しない限り、相続人全員が合意しても、勝手にAさんの取り分を変えることはできません。Aさんは遺言によって権利を得た当事者だからです。Aさんの同意(または遺贈の放棄)が必要になります。
② 遺言執行者が指定されている場合
遺言書で遺言執行者(遺言の内容を実現する役割の人)が指定されていると、ひと手間増えます。
民法第1012条第1項
「遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。」
遺言執行者には、遺言の内容を実現する義務があります。ですから、相続人全員が別の分け方を望む場合でも、遺言執行者の同意を得ておくのが実務です。 ここを飛ばすと、後で「執行を妨げた」と問題になりかねません。実際には、遺言執行者にも事情を説明し、納得してもらったうえで進めます。
③「相続させる」と書かれた遺言
これは特に注意が必要です。「自宅は長男に相続させる」という書き方の遺言については、最高裁の判例があります。
最高裁 平成3年4月19日判決(要旨)
「相続させる」旨の遺言は、特段の事情がない限り、被相続人の死亡と同時に、何の手続きもいらずに、その相続人に直ちに財産が承継される。
つまり、「相続させる」と書かれた財産は、亡くなった瞬間にもうその人のものになっている、という扱いです。とはいえ、いったんその人のものになった財産を、改めて相続人全員で分け直すこと自体は可能です。ただ「遺言があってもなかったことにできる」という単純な話ではないので、こういう遺言があるときは慎重に進めます。
⚠️ 遺留分(一定の相続人に法律上保障された最低限の取り分)が絡む場合や、相続人の間で意見が割れている場合は、判断が難しくなります。そうしたケースは弁護士の領域です。
実務では、どうやって手続きを進める?
「全員が合意して、遺言と違う分け方でいく」と決まったら、実務はシンプルです。
- 遺産分割協議書を作成する(誰が何を相続するかを書く)
- 相続人全員が署名・実印で押印し、印鑑証明書を添える
- 受遺者・遺言執行者がいれば、その同意も書面で整える
- 銀行の解約や名義変更、不動産の相続登記は、この遺産分割協議書をもとに進める
銀行や法務局には、遺言書を必ず提出しなければならないわけではありません。遺産分割協議書がそろっていれば、それをもとに手続きが進みます。
蟹江町の不動産であれば、相続登記の申請先は名古屋法務局 津島支局です。
⚠️ ただし、遺言書があることを隠して進めるのとは違います。遺言執行者がいる場合や「相続させる」遺言がある場合は、前章のとおり、その存在を踏まえたうえで全員が納得して進めることが前提です。
なお、遺言と違う分け方をすると、人によっては贈与税の問題が出ることもあります(もともと遺言でもらうはずだった人から、別の人へ財産が移る形になるため)。税金の判断は税理士の領域ですので、必要に応じて提携税理士をご紹介します。
遺言書を「書く側」が知っておくべきこと
ここまで読んで、「じゃあ遺言書を書いても意味ないの?」と思った方もいるかもしれません。そうではありません。
遺言書があると、相続人が「故人はこう考えていたんだ」と知ったうえで話し合えます。 何も手がかりがない状態で分け方を決めるのと、故人の意思という土台がある状態で決めるのとでは、まとまりやすさがまるで違います。
私、尾張の経験でも、遺言書があったおかげで「お父さんがこう書いてるなら、それを尊重しよう」とスッと協議がまとまったご家庭が何度もあります。逆に、遺言書がまったくないために、きょうだいで何年も止まってしまったケースもあります。
大事なのは、相続人が皆「これなら納得できる」と思える内容を書いておくことです。あまりに一方的な内容だと、かえって全員が「別の分け方にしよう」と動いてしまう。遺言書は「結果を強制する道具」というより、「自分の意思を確実に伝える手段」だと考えると、より生きる遺言書が書けます。
遺言書の書き方や種類については、別の記事でも詳しく解説しています。
こういうケースは誰に相談すればいい?
最後に、相談先の整理です。
- 相続人全員の合意が取れそうな場合 → 司法書士(遺産分割協議書の作成と、登記・解約などの手続き面をサポートします)
- 合意が難しい・遺留分でもめそうな場合 → 弁護士(交渉や調停が必要になるため)
「遺言書はあるけれど、みんなで話し合って別の形にしたい」という段階であれば、当事務所でお手伝いできます。一方で、すでに意見が割れている場合は、弁護士のご紹介も含めてご案内します。
まとめ
- 遺言書があっても、相続人全員の合意があれば違う内容で遺産分割できる
- 「全員」には、相続人のほか、受遺者・遺言執行者も含まれる。一人でも欠けると不可
- 相続人以外の受遺者がいると、その人の同意(または遺贈放棄)が必要
- 遺言執行者が指定されていれば、その同意を得るのが実務
- 「相続させる」遺言は死亡と同時に承継される(最判平成3年4月19日)ため、慎重に進める
- 実務は遺産分割協議書ベース。受遺者・遺言執行者の同意も書面で整える
- 遺言書は「結果の強制」より「意思を確実に伝える手段」。全員が納得できる内容が大切
「遺言書が出てきたけど、この内容で本当にいいのかな?」と迷ったら、手続きを始める前にご相談ください。順番を間違えると、書類のやり直しになることがあります。
相続をおわりに。
「うちの場合はどうなんだろう?」と思ったら、まずはお気軽にご相談ください。
📞 電話:0120-542-184(平日9:00〜18:00)
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蟹江町で相続のことなら、蟹江町在住司法書士の私、尾張がすぐに対応いたします。
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参考
【執筆者】
司法書士尾張由晃 司法書士法人せと事務所代表
愛知県司法書士会 登録番号:第1981号
蟹江町在住、実務歴10年以上。同じ地元民として、単なる事務作業ではない「生涯に寄り添うサポート」をお約束します。
最終更新:2026年6月2日
