「財産はどうやって分ければいいんですか?」——相続のご相談でよくいただく質問です。
「相続をおわりに。」司法書士の尾張です。
実は、遺産の分け方に「こうしなければいけない」という法律上の決まりはありません。
相続人全員が納得できるなら、どんな分け方でも有効です。
ただ、そうはいっても「何をどう決めればいいかわからない」という方がほとんどです。
この記事では、遺産分割の基本的な仕組みと分割方法の種類を、
よくある誤解も交えながら解説します。
→ 相続手続き全体の流れはこちらの記事をご覧ください。
目次
- 相続が始まると、遺産はいったん「みんなのもの」になる
- 遺産分割に「こう分けなければ」という決まりはない
- 3つの分割方法:それぞれの特徴と向き不向き
- 協議がまとまったら「遺産分割協議書」を作成する
- まとめ
相続が始まると、遺産はいったん「みんなのもの」になる
人が亡くなると、その方が持っていた権利や義務が、
法律で定められた相続人に引き継がれます。これが相続です。
相続人が一人だけであれば、すべてその人が引き継いで完了です。
ところが相続人が複数いる場合は、話が変わります。
相続が発生した瞬間、遺産は相続人全員の「共有」となります(民法第898条)。
「みんなのもの」という状態は、一見シンプルに聞こえますが、
実際には使いにくいものです。
たとえば、実家の不動産が「みんなのもの」のままでは、
売却するにも全員の合意が必要です。
銀行口座も、名義人が亡くなった後は手続きなしに動かせません。
誰が何をどう引き継ぐかを決めること——それが遺産分割です。
遺産分割に「こう分けなければ」という決まりはない
遺産分割協議とは
相続人全員で「誰が何を相続するか」を話し合うことを「遺産分割協議」といいます。
ただし、故人が遺言書を残していた場合は、原則として遺言の内容が優先されます。
遺産分割協議が必要になるのは、遺言書がない場合、または遺言書で決められていない財産がある場合です。
遺言書については別記事で詳しく解説します。
民法第906条は、遺産分割は「遺産に属する物または権利の種類・性質、
各相続人の年齢・職業・心身の状態・生活の状況その他一切の事情を考慮してこれをする」
と定めています。
つまり、法律が定めているのは「いろんな事情を考慮してね」ということだけです。
分け方の具体的な割合や方法は、相続人全員の合意に委ねられています(民法第907条)。
法定相続分は「揉めたときの目安」にすぎない
一方で、法律上の権利の割合(法定相続分)は民法第900条で定められています。
| 相続人の組み合わせ | 配偶者 | 配偶者以外 |
|---|---|---|
| 配偶者 + 子 | 1/2 | 子で1/2を均等に分割 |
| 配偶者 + 直系尊属(父母・祖父母) | 2/3 | 直系尊属で1/3を均等に分割 |
| 配偶者 + 兄弟姉妹 | 3/4 | 兄弟姉妹で1/4を均等に分割 |
| 子のみ | — | 全員で均等に分割 |
→ 誰が相続人になるのか・法定相続人の範囲についてはこちらの記事でまとめています。
ただし、この割合はあくまで「相続人の間でまとまらなかったときの目安」です。
「誰がどれだけ世話をしたか」「一緒に住んでいたか」「最後に会ったのが何十年前か」——
こうした事情は法定相続分の計算には一切反映されません。
だから揉めるんです。財産の多い少ないより、この「割り切れない感情」がこじれることの方が多い印象です。
揉めたら調停・審判——そのときは弁護士へ
協議がまとまらない場合は、家庭裁判所での遺産分割調停に進みます。
それでも決まらなければ審判になります。
当事務所は司法書士事務所ですので、
当事者間で争いになっている案件は弁護士にご紹介します。
「揉めそうだな」と感じたら早めにご相談ください。
3つの分割方法:それぞれの特徴と向き不向き
では、協議がまとまった場合、具体的にどのような方法で財産を分けることができるのでしょうか。
遺産の分け方には、大きく3つの方法があります。
どの方法が適しているかは、財産の内容と相続人の状況によって変わります。
現物分割——財産をそのまま分ける
遺産をそのままの形で各相続人が取得する方法です。
「実家の土地はAが相続、預貯金はBが相続」といったイメージです。
最もシンプルな方法ですが、財産の価値が均等に分けにくい場合は
不公平感が生じやすいというデメリットがあります。
「共有名義」のまま残すという選択について
不動産を複数人の共有名義で相続するという選択もあります。
ただし、これは将来的に問題になりやすいため、あまりおすすめしません。
今の共有者(たとえば兄弟姉妹)が存命の間は意思疎通が取れていても、
時間が経つとその状況が変わります。
兄が亡くなれば、共有者は兄の配偶者や甥・姪になります。
さらに時間が経てば、その子どもたちが共有者になっていきます。
最初は「兄弟でうまくやれる」と思っていたものが、
世代が変わるにつれて関係性が薄くなり、合意を得るのが難しくなっていきます。
共有名義はできるだけ避けるか、早めに解消することをおすすめします。
換価分割——売却して現金で分ける
遺産を売却し、売却代金を相続人で分ける方法です。
誰も実家に住む予定がない場合や、
不動産の価値が大きく現物では均等に分けられない場合に選ばれます。
全員が現金で受け取れるため、公平に分けやすい方法です。
ただし、売却のタイミングや価格について全員の合意が必要になります。
また、売却によって譲渡所得税が発生する場合があります。
税額については税理士にご相談ください。
当事務所でも提携税理士をご紹介できます。
代償分割——一人が取得して他の人に現金を払う
相続人の一人が財産(主に不動産)を取得し、
他の相続人に対して現金(代償金)を支払う方法です。
「実家を長男が引き継ぐ代わりに、他の兄弟には相当額の現金を渡す」
というケースで多く使われます。
現物を手放さずに済む反面、
代償金を支払う相続人に十分な資力(現金)がなければ成立しません。
また、代償金の授受の仕方によっては課税関係が複雑になることがあります。
遺産分割協議書の書き方も含めて、税理士・司法書士への相談をおすすめします。
分割方法を間違えると税金が大きく変わることがある
現物・換価・代償、どの方法を選ぶかによって、
発生する税金の種類や金額が大きく異なることがあります。
特に換価分割と代償分割は、
やり方を誤ると想定外の税負担が生じる場合があります。
分割方法を決める前に、税理士へ相談しておくことを強くおすすめします。
協議がまとまったら「遺産分割協議書」を作成する
誰が何を相続するかが決まったら、
その内容を文書にまとめます。これが「遺産分割協議書」です。
相続登記・銀行口座の解約・株式の名義変更など、
遺産に関するほぼすべての手続きで提出が求められます。
相続人全員の署名と実印が必要です。
協議書に「借金は引き受けない」と書いても借金は防げない
ここで一つ注意があります。
遺産分割協議書に「借金を含む負の財産はAが引き受ける」と書いても、
債権者(貸した側)に対してはその合意の効力が及びません。
相続放棄と違い、遺産分割協議は相続人間の取り決めにすぎないからです。
借金を相続したくない場合は、遺産分割協議ではなく
家庭裁判所での「相続放棄」の申述が必要です。
→ 相続放棄と遺産分割の違い・手続きの詳細は
こちらの記事で解説しています。
「全員が同じ紙に署名しなければならない」は勘違い
実務をやっていると、よく「え、そうなんですか?」と言われる話があります。
遺産分割協議書は、全員が一枚の紙に署名・押印しなければならない、というルールはありません。
内容がまったく同じであれば、相続人ごとに別々の紙に署名・押印してもOKです。
全員が同じ日時・同じ場所に集まれるなら一枚でまとめてしまうのが早いですが、
実際には遠方に住んでいたり、スケジュールが合わなかったりすることのほうが多いです。
一枚の用紙を使い回そうとすると、
「Aさんに郵送 → 署名して返送 → 次はBさんに郵送 → また返送待ち…」
と、それだけで何週間もかかってしまいます。
そのため実務では、同じ内容の協議書を人数分印刷して、それぞれに署名・押印してもらうやり方がほとんどです。
弁護士さんでも「必ず一枚にまとめるもの」と思っている方がいるくらいなので、知らなかったとしても無理はありません。
協議書は何通作っても構わない
「遺産分割協議書は一通だけ作ればいい」と思われがちですが、これも実務では少し違います。
不動産があって、金融機関も複数ある場合、
協議書が一通しかないと「A銀行に提出 → 返ってくるまで1か月待ち → 次はB銀行へ…」と手続きが直列になってしまいます。
協議書は同じ内容であれば何通作っても問題ありません。
実務では、相続登記用・各金融機関用と、手続きの数だけ協議書を作成して
同時並行で手続きを進めるのが一般的です。
これを知っているかどうかで、相続手続き全体のスピードがかなり変わります。
協議書に何をどう記載するか、どんなひな型が使えるかについては、別途詳しく解説する予定です。
まとめ
- 相続人が複数いると、遺産はいったん全員の共有になる(民法第898条)
- 遺産分割とは「誰が何を引き継ぐか」を全員で決める手続き
- 法定相続分は「揉めたときの目安」。全員が納得すればどんな分け方でもOK
- 分割方法は現物・換価・代償の3種類。選び方によって税金が大きく変わることがある
- 共有名義は将来トラブルになりやすい。世代が変わると意思疎通が難しくなる
- 協議がまとまったら遺産分割協議書を作成する(相続人全員の署名・実印が必要)
- 揉めたら調停・審判へ。当事務所から弁護士をご紹介できます
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【執筆者】
司法書士尾張由晃 司法書士法人せと事務所代表
愛知県司法書士会 登録番号:第1981号
蟹江町在住、実務歴10年以上。同じ地元民として、単なる事務作業では
ない「生涯に寄り添うサポート」をお約束します。
参考:公的機関の一次情報
– 民法(e-Gov法令検索)
– 法定相続人の範囲・法定相続分(大阪法務局)
– 遺産分割調停(裁判所)
最終更新日:2026年4月27日
