「実家に残って、ずっと父と同居してきた。毎日の食事も、病院の付き添いも、全部私がやってきた。なのに名古屋に出ていった兄と相続分が同じって、それはおかしくないですか」
こういうご相談が、少なくありません。
「相続をおわりに。」司法書士の尾張です。
蟹江町は昔からの家も多く、名古屋にも働きに出られる距離だからこそ、実家に残った子と出ていった子に分かれやすい土地柄があります。同居してずっと面倒を見てきた方が「同じ取り分はおかしい」と感じるのは、当然のことだと思います。
この記事では、その気持ちに答えるための「寄与分」という制度と、実際にどこまで認められるのかという現実を正直にお伝えします。
目次
- 寄与分とは——法律上の定義
- 「特別の寄与」とは——普通の世話との違い
- 認められる例・認められない例
- 義理の親族も請求できる(2019年改正)
- 「主張したい」と思ったら——協議・調停・審判の流れ
- 実際のところ、どう着地させるか
- まとめ
寄与分とは——法律上の定義
寄与分とは、相続人の中に「特別の寄与」によって被相続人(亡くなった方)の財産の維持または増加に貢献した人がいる場合に、その貢献分だけ相続分を増やせる制度です。
根拠は民法第904条の2第1項です。
民法第904条の2第1項
「共同相続人中に、被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付、被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から共同相続人の協議で定めたその者の寄与分を控除したものを相続財産とみなし、第九百条から第九百二条までの規定により算定した相続分に寄与分を加えた額をもってその者の相続分とする。」
相続は原則、法定相続分の割合で分けます。しかし、同じ「子」であっても、長年実家で同居して介護してきた子と、離れて暮らしていた子を完全に同列に扱うのは不公平ではないか——そういう発想から設けられた制度です。
貢献した相続人の相続分を先に確保してから、残りを法定相続分で分ける、という仕組みです。
「特別の寄与」とは——普通の世話との違い
ここが一番重要なところです。
「世話をしてきた」ことのすべてが「特別の寄与」になるわけではありません。
「普通の家族の世話」は、法律上当然の義務の範囲内とみなされるため、特別の寄与にはなりません。
民法第877条には、直系血族・兄弟姉妹は互いに扶養する義務があると定められています。家族として生活を支え合うことは、法律上「やって当たり前のこと」として扱われます。
「特別の寄与」として認められるためのハードルはかなり高いです。
認められるためには、おおむね次の3つの要素を満たす必要があります。
- 継続性:長期間にわたって継続していたこと
- 専従性:他の仕事ができないほど介護に専念していたこと(ほぼフルタイム相当)
- 財産への貢献:その貢献によって、被相続人の財産が維持または増加したこと(たとえば、本来かかるはずだった介護施設の費用が浮いた)
認められる例・認められない例
具体的に整理します。
認められる可能性がある「特別の寄与」の例
| 状況 | 内容 |
|---|---|
| 療養看護 | 介護施設に相当するレベルの介護を、長期間・専業で行ってきた |
| 事業への従事 | 農業・自営業を手伝い、売上が大幅に増加した・後継ぎとして実質的に経営した |
| 財産管理 | 多額の財産管理を長期間行い、財産を維持した |
認められない「普通の世話」の例
「これは認められないの?」と思われる方も多いですが、以下は原則として特別の寄与にはなりません。
- 週に数回通って家事をしていた
- 通院に付き添っていた
- 同居して日常の生活の面倒を見ていた
- 施設入所の際に一時的に費用を立て替えた
- 看取りの場面だけ集中的に関わった
私、尾張のところへご相談に来られた方でも、「ずっとそばにいて、食事の世話も病院の付き添いも全部やってきた」とおっしゃる方は多いです。その大変さは本当だと思います。でも、それが「特別の寄与」として法律上認められるかというと、ほとんどのケースで難しいのが現実です。
義理の親族も請求できる(2019年改正)
もうひとつ押さえておきたいのが、2019年(令和元年)7月1日施行の民法改正です。
改正前は、寄与分は「相続人」だけが主張できる制度でした。どれだけ長年介護していても、法律上の相続人でない嫁や婿は1円も請求できないという問題がありました。
改正後は、「特別寄与者」という制度が新設され、相続人でない親族(義理の息子・娘など)も、一定の要件を満たせば「特別寄与料」として金銭を請求できるようになりました。
民法第1050条第1項
「被相続人に対して無償で療養看護その他の労務の提供をしたことにより被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした被相続人の親族(相続人、相続の放棄をした者及び第八百九十一条の規定に該当し又は廃除によってその相続権を失った者を除く。以下この条において「特別寄与者」という。)は、相続の開始後、相続人に対し、特別寄与者の寄与に応じた額の金銭(以下この条において「特別寄与料」という。)の支払を請求することができる。」
ただし、ここでも同じことが言えます。
「息子の嫁が介護してくれていた」という話はよく聞きます。実際、「嫁も請求できるようになったと聞いたんですが!」と相談に来られる方もいます。
ただ、「どんなことをしていたか」を聞いてみると、「一緒に生活して、週一回の通院に付き添っていた」というケースがほとんどです。残念ながら、それは「特別寄与料」の対象にはなりません。
「特別の寄与」の基準は、相続人の寄与分と同じく高いのです。
「主張したい」と思ったら——協議・調停・審判の流れ
「それでも主張したい」という場合の手続きの流れです。
ステップ1:遺産分割協議
まず、相続人全員での話し合い(遺産分割協議)の中で、寄与分を考慮した分け方を提案します。全員が合意すれば、法律上の「特別の寄与」に当たらなくても、実質的に貢献分を反映させることができます。
→ 遺産分割協議については遺産分割とは?方法の種類と決め方を司法書士が解説もご覧ください。
ステップ2:調停(家庭裁判所)
協議で合意できなかった場合、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てます。調停委員が間に入って話し合いを進めます。
ステップ3:審判(家庭裁判所)
調停でも合意に至らない場合、審判に移行します。裁判所が寄与分を判断し、分割方法を決定します。
ここで正直にお伝えしておきます。
調停・審判まで進むと、時間もお金もかなりかかります。
弁護士費用、期間、精神的な負担——これらを考えると、費用倒れになるケースも決して少なくありません。
調停・審判にまで発展した場合は、司法書士の業務範囲を超えますので、弁護士をご紹介します。ただ、その前にできることがあります。それが次のステップです。
実際のところ、どう着地させるか
私、尾張が相談を受けたとき、まず伝えることがあります。
「大変だったね、それはわかる。不公平だと感じるのも当然だと思う。」
「でも、その上で考えましょう。法律上の「特別の寄与」として認められるか、認められないか。もし認められる可能性が低いとしたら、協議の中でどう話を持っていくか。強硬に主張して揉めてしまったら、それだけで時間も費用も大変にかかってしまう。」
「一番のポイントは、最初の協議でどう持っていくかです。そこで着地点を探れるかどうかで、全部変わります。」
相談に来た方が「介護したんだから多めにもらえますよね?」とおっしゃることがあります。
「特別の寄与が必要で、認められるにはこういう基準がある」という話をすると、「そっかー、法律で決まってるんだもんね」と納得される方がほとんどです。
感情と法律は別です。でも、感情を無視して法律だけで進めても、誰も幸せにならない。
協議の場でどう貢献を伝え、どこに着地するか——それを一緒に考えるのが、私の役割だと思っています。
「主張できる可能性があるのか、ないのか」「どのあたりが無難な着地点か」——そのあたりを整理するだけでも、ずいぶん違います。愚痴を言いに来るだけでも構いません、まずはご相談ください。
まとめ
- 寄与分とは、「特別の寄与」によって財産の維持・増加に貢献した相続人の取り分を増やせる制度(民法第904条の2)
- 「特別の寄与」の基準は高い——継続性・専従性・財産への貢献の3要素を満たす必要がある
- 日常の家事・通院付き添い・同居による世話は「普通の家族の義務の範囲」とみなされ、原則として特別の寄与にはならない
- 2019年改正(民法1050条)で義理の親族(嫁・婿など)も特別寄与料を請求できるようになった——ただし同じく基準は高い
- 手続きは協議→調停→審判の順。調停・審判は時間・費用・精神的負担が大きい
- 最初の協議でどう着地させるかが鍵。法的請求より、協議の場で貢献を考慮してもらう方向が現実的なことが多い
- 「主張できるのかどうか」「どこが着地点か」を判断するためにも、まずは相談を
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相続をおわりに。
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【執筆者】
司法書士尾張由晃 司法書士法人せと事務所代表
愛知県司法書士会 登録番号:第1981号
蟹江町在住、実務歴10年以上。同じ地元民として、単なる事務作業では
ない「生涯に寄り添うサポート」をお約束します。
参考:公的機関・一次情報
– 民法第904条の2(寄与分)(e-Gov法令検索)
– 民法第1050条(特別の寄与)(e-Gov法令検索)
– 遺産の分割の審判事件(裁判所)
最終更新日:2026年5月15日
