お一人様の終活、何から始める?——任意後見から死後事務委任まで
「もし私が倒れたら、亡くなったら、手続きをしてくれる人が誰もいない。どうすればいいんでしょう?」
身寄りのないお一人様から、蟹江町でもこうしたご相談をよくいただきます。「死んだ後のことなんて、もうどうにもならんがね」とあきらめておられる方も少なくありません。でも、そんなことはありません。
「相続をおわりに。」司法書士の尾張です。
お一人様が備えておく手続きは、実は大きく5種類あります。元気なうちに使うもの、判断能力が弱ってきたときのもの、亡くなった後のもの——それぞれ役割が違います。順番に、使いどころと費用感をご説明します。
この記事でわかること
- お一人様が何も準備しないと、生前・死後にどう困るのか
- 元気なうちに結ぶ「財産管理委任契約」「見守り契約」とは
- 判断能力が低下したときの「任意後見契約」とは
- 医療の希望を残す「尊厳死宣言・リビングウィル」とは
- 亡くなった後を託す「死後事務委任契約」とは
- 相続財産清算人・身元保証団体と比べて、費用はどう違うのか
お一人様が何も準備しないと、どうなるの?
「お一人様」とは、ここでは法定相続人がいない方を指します。配偶者・子・親・兄弟姉妹(その代襲を含む)がいない、あるいは全員が先に亡くなっている、というケースです。
法定相続人の範囲については法定相続人とは?範囲・順位・相続分をわかりやすく解説で詳しく解説しています。
何も準備しないと、3つの場面で困りごとが起こります。
1つ目は、亡くなった後の財産の行き先です。
法定相続人がいないまま亡くなると、財産は最終的に国のもの(国庫)になります。お世話になった方やお墓を守ってほしい人がいても、その人には1円も渡せません。この流れと対処法は子も兄弟もいない——亡くなった後の財産はどうなる?国庫帰属の流れと遺言書のすすめで詳しく書いています。
2つ目は、判断能力が低下したときです。
認知症などで自分のことを自分で決められなくなると、家庭裁判所が選んだ人(法定後見人)に手続きを委ねることになります。このとき問題になるのが、「あなたがどんな希望を持っていたか」が後見人に伝わらないことです。判断能力が下がってから「こうしてほしい」と伝えるのは難しいので、後見人は一般的・無難な範囲で財産を管理することになります。自分の思いを反映してもらいにくいのです。
3つ目は、亡くなった後の事務手続きです。
人が亡くなると、死亡届の提出、住民票の抹消、運転免許証の返納、年金の停止、住まいの引き払い、家財の処分、電気・水道・ガスの解約——たくさんの手続きが必要になります。家族がいればやってくれますが、お一人様だと「誰がやるのか」という問題が残ります。
実はこの「誰がやるのか」は、賃貸の入居審査にも影響します。「身寄りのない人に貸して、もし部屋で亡くなったら、誰が手続きするんだ」と大家さんが不安に思い、入居を断られるケースが増えているのです。
私、尾張が相談会でお話ししているのも、まさにこの「生前から死後までの5つの順番」です。順に見ていきましょう。
元気なうちから始める——財産管理委任契約と見守り契約とは?
お一人様の備えは、「今日まで元気で、明日から急に何もできなくなる」という前提では考えません。多くの場合、できることが徐々に減っていきます。その段階に合わせて、補い合う制度があります。
財産管理委任契約(任意代理)
判断能力はしっかりあるけれど、体が不自由になってきた、入院した、外出が難しい——そんなときに「銀行の手続きを代わりにやってほしい」「この契約を代理でお願いしたい」と頼める契約です。
判断能力があるうちから使えるのが特徴です。「まだ自分でもできるけれど、念のため任せておきたい」という段階から効力を持ちます。公正証書で作っておくことが多い契約です。
見守り契約
「最近どうですか、お変わりないですか」と、月1回程度、定期的に会って状況を確認する契約です。
なぜ必要かというと、次にご説明する任意後見は「判断能力が低下したら効力を持たせる」仕組みですが、その“低下したタイミング”を本人が自分で見極めて申し出るのは難しいからです。定期的に会っていれば、「そろそろ任意後見に切り替える時期ですね」と専門家側が気づけます。見守り契約は、任意後見の“スイッチを押すタイミング”を見逃さないためのセット契約だとお考えください。
判断能力が弱くなってきたら——任意後見契約とは?
任意後見契約は、元気なうちに「将来、自分の判断能力が低下したら、この人に財産管理や手続きを任せます」と公正証書で決めておく契約です。
法定後見との一番の違いは、「誰に任せるか」を自分で選べることです。法定後見は家庭裁判所が後見人を選びますが、任意後見は信頼できる相手をあらかじめ自分で指名できます。
任意後見契約に関する法律 第4条第1項
「任意後見契約が登記されている場合において、精神上の障害により本人の事理を弁識する能力が不十分な状況にあるときは、家庭裁判所は、…任意後見監督人を選任する。」
つまり任意後見は、契約しただけでは効力が始まりません。実際に判断能力が低下したあと、家庭裁判所に任意後見監督人の選任を申し立てて、はじめて効力が発生します。
任意後見人ができるのは、銀行手続き・契約・不動産の管理といった法律行為です。一方で、「買い物に連れて行く」「病院に付き添う」といった、実際に体を動かす事実行為はできません。ここは誤解されやすいポイントなので、後ほど身元保証団体との比較で改めて触れます。
認知症への備えとして任意後見・法定後見・家族信託をどう使い分けるかは、認知症への備え——成年後見と家族信託、制度の違いと使いどころで詳しく解説しています。
医療行為の「同意」はどうなる?——尊厳死宣言・リビングウィルとは?
ここに、現行の制度ではカバーしきれない“穴”があります。
家族がいれば、手術や延命治療の場面で、お医者さんが家族に意向を確認しながら進めてくれます。ところがお一人様の場合、その確認先がいません。
そして重要なのは、任意後見人にも成年後見人にも「医療同意権」はないということです。後見人は財産管理や契約はできても、「この手術を受けます」「延命治療はしません」という医療上の判断を本人に代わって行う権限は、現行法では認められていません。
そこで使えるのが、自分の意思がはっきりしているうちに、医療の希望を書面で残しておく方法です。
- 尊厳死宣言(尊厳死公正証書):「回復の見込みがない終末期には、延命のためだけの治療を望みません」といった意思を、公正証書で残しておくもの
- リビングウィル:終末期医療についての自分の希望を書面で表明しておくもの
ただし、ここは正直にお伝えします。これらの書面に強い法的強制力があるとは言い切れません。お医者さんが治療方針を判断するときの「参考書面」という位置づけです。それでも、自分の意思を示す文書があるのとないのとでは、医療現場での扱いが変わってきます。厚生労働省も「人生会議(ACP)」として、終末期の希望を前もって話し合っておくことをすすめています。
亡くなった後の手続きは誰がやる?——死後事務委任契約とは?
死後事務委任契約は、生前に「私が亡くなった後の、これとこれをやってください」と専門家などに委任しておく契約です。
任せられる内容の例は次のとおりです。
- 死亡届の提出
- 住民票の抹消、年金の停止、運転免許証の返納
- 賃貸物件の退去・明け渡し、家財道具の処分
- 電気・水道・ガスの解約
- 銀行口座の解約
死亡届について、根拠となる条文を見てみましょう。
戸籍法第87条
「次の者は、その順序に従つて、届出をしなければならない。一 同居の親族 二 その他の同居者 三 家主、地主又は家屋若しくは土地の管理人」
「死亡の届出は、同居の親族以外の親族、後見人、保佐人、補助人、任意後見人及び任意後見受任者も、これをすることができる。」
つまり、お一人様が病院で亡くなれば「家屋の管理人」として病院長が、自宅で亡くなれば大家さんが死亡届を出す立場になり得る、ということです。本来は無関係な人に負担がかかってしまいます。
死後事務委任は、おじ・おば・いとこといった法定相続人ではない親族に頼むこともできます。ただし、ここに落とし穴があります。死後事務だけ頼んで、その人に財産を残す手配(遺言書)をしていないと、「手続きはやらされたのに、財産は1円も入ってこない」という事態になりかねません。
頼まれた側の負担を考えると、死後事務委任は遺言書とセットで準備しておくのが大切です。遺言書の必要性については私に遺言書は必要?——相談会で一番多い質問に本音で答えますもあわせてお読みください。死後事務委任契約も、公正証書で作成することが多い契約です。
相続財産清算人・身元保証団体と比べると——費用と向き不向き
「専門家と契約しなくても、いざとなれば誰かが何とかしてくれるのでは?」と思われるかもしれません。そこで、準備をしなかった場合に登場する制度と比べてみます。
相続財産清算人
何も手配せずに亡くなると、家賃を滞納された大家さんなどが、家庭裁判所に相続財産清算人の選任を申し立てることがあります。これは相続財産を整理・清算するための人です。
ただし、申し立てる人は予納金を納める必要があります。予納金は家庭裁判所が事情に応じて決めますが、おおむね10万〜100万円、ケースによっては100万円程度になることもあります(清算後に財産が残れば返還されます)。
ここで現実的な問題が起こります。たとえば家賃5万円を2か月滞納されて10万円を回収したい大家さんが、そのために数十万円を立て替えて清算人を申し立てるかというと、なかなか踏み切れません。結果として、家財が事実上処分され、ライフラインも滞納のまま強制解約になる、ということが起こりがちです。「立つ鳥あとを濁さず」とは反対の状態です。
身元保証団体
任意後見人にできない「事実行為」——買い物の付き添い、通院の同行、賃貸入居時の身元保証など——を引き受けてくれるのが身元保証団体です。身の回りの世話まで含めて頼める一方、お願いする内容によっては数百万円規模の費用がかかる場合もあります。
費用の目安を比べると
| 備え方 | 主な内容 | 費用の目安(公証役場手数料・実務の相場) |
|---|---|---|
| 任意後見契約(公正証書) | 判断能力低下後の財産管理・手続き | 公証役場手数料 1契約 13,000円+登記嘱託料1,600円+収入印紙2,600円。専門家への作成依頼は5〜15万円程度 |
| 死後事務委任契約 | 死亡届・退去・解約などの死後事務 | 公正証書手数料+専門家報酬(内容により変動) |
| 相続財産清算人 | 準備せず死亡 → 第三者が申立 | 予納金10〜100万円程度 |
| 身元保証団体 | 入居保証+付き添いなど事実行為 | 数百万円規模になる場合も |
※費用は依頼先や財産・契約内容によって変わります。正確な金額は契約前にご確認ください。
こうして並べると、「任意後見+死後事務委任」で組めば数十万円台におさまるケースもあります。一方、買い物の付き添いや通院同行といった事実行為が必要な方は、身元保証団体が向いている場面もあります。どちらが合うかは、「あなたが何をお願いしたいか」次第です。
まとめ:5つの制度をタイムラインで整理する
お一人様の備えを時系列で並べると、こうなります。
| フェーズ | 元気なとき | 少し不安になってきた | 判断能力が低下した | 亡くなった後 |
|---|---|---|---|---|
| 財産・手続き | 財産管理委任契約 | 見守り契約 | 任意後見契約 | 死後事務委任契約・遺言書 |
| 医療 | 尊厳死宣言・リビングウィルの作成 | → | (後見人に医療同意権はない) | — |
- 法定相続人がいないと、財産は国庫へ。残したい相手がいれば遺言書が必要
- 判断能力の低下に備えるのが財産管理委任・見守り・任意後見
- 医療の希望は尊厳死宣言・リビングウィルで残す(参考書面)
- 亡くなった後の事務は死後事務委任で、遺言書とセットで
- 「何をお願いしたいか」で、使う制度の組み合わせと費用が変わる
それぞれの制度は、今後、個別の記事で詳しく解説していく予定です。 「自分の場合はどの組み合わせがいいんだろう」と迷ったら、まずは一度ご相談ください。どんな希望をお持ちかをお聞きすれば、合いそうな制度とおおよその費用の目安をお伝えできます。
蟹江町でお一人様の相続対策をお考えの方へ
- 公正証書の作成先:津島公証役場(海部地域の公証役場。任意後見・死後事務委任・尊厳死宣言などの公正証書作成先)
- 手続き先:名古屋法務局 津島支局(0567-26-2423/海部郡=蟹江・飛島・大治を管轄)
- 高齢者の生活支援の窓口:蟹江町役場(介護・福祉の担当課)
- 後見制度の相談窓口:愛知県司法書士会
相続をおわりに。
「うちの場合はどうなんだろう?」と思ったら、まずはお気軽にご相談ください。
📞 電話:0120-542-184(平日9:00〜18:00)
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蟹江町で相続のことなら、蟹江町在住司法書士の私、尾張がすぐに対応いたします。
【執筆者】
司法書士尾張由晃 司法書士法人せと事務所代表
愛知県司法書士会 登録番号:第1981号
蟹江町在住、実務歴10年以上。同じ地元民として、単なる事務作業では
ない「生涯に寄り添うサポート」をお約束します。
参考リンク(一次情報)
- 任意後見契約に関する法律(e-Gov法令検索)
- 戸籍法(e-Gov法令検索)
- 相続財産清算人の選任(裁判所)
- 任意後見契約公正証書の作成費用(日本公証人連合会)
- 人生会議(ACP)について(厚生労働省)
最終更新日:2026年6月22日
