不動産を渡すなら生前贈与と相続どっち?——費用・税金の比較と本当の使いどころ
「生前贈与しておいた方がいいんじゃないかと思ってきたんですが…」
相談会でよく受けるご相談です。
「相続をおわりに。」司法書士の尾張です。
実際にお話を聞いていくと、「じゃあやめときます」となる方がとても多いです。なぜそうなるのか——まず数字を見てください。
目次
- まず数字を見てみましょう
- なんでこんなに違うのか——3つの理由
- 相続時精算課税を使えば贈与税は減らせる——でも登記費用は変わらない
- 本当に生前贈与が有効な場面——収益不動産の収入を早期に移す
- 「将来確実にあの子に渡したい」なら——遺言書という選択肢
- まとめ
まず数字を見てみましょう
私、尾張の母親も、実家(母親名義)を同居している弟に生前贈与しておいたらいいんじゃないかと言っていました。相続だったらこれくらい、生前贈与だったらこれくらいかかるよ、と概算をお伝えしたら、「そんなのやらんほうがええやん。やめとくわ。」となりました。
そりゃそうだと思います。数字を見ると、これほど違います。
固定資産税評価額1,000万円・2,000万円の不動産を、親から子へ渡す場合の比較です(相続税は非課税の範囲内と仮定)。
1,000万円の不動産の場合
| 相続 | 生前贈与(暦年課税) | |
|---|---|---|
| 贈与税・相続税 | 0円 | 177万円(※1) |
| 登録免許税 | 4万円 | 20万円 |
| 不動産取得税 | 0円 | 約30万円〜 |
| 合計目安 | 約4万円 | 約227万円〜 |
2,000万円の不動産の場合
| 相続 | 生前贈与(暦年課税) | |
|---|---|---|
| 贈与税・相続税 | 0円 | 585万5千円(※2) |
| 登録免許税 | 8万円 | 40万円 |
| 不動産取得税 | 0円 | 約60万円〜 |
| 合計目安 | 約8万円 | 約685万円〜 |
(※1)贈与税の計算:課税価格890万円(1,000万-110万)× 30% - 90万円 = 177万円(特例贈与の場合)
(※2)贈与税の計算:課税価格1,890万円(2,000万-110万)× 45% - 265万円 = 585万5千円(特例贈与の場合)
めちゃめちゃ違いますよね。なぜこんなに差が出るのか、3つの理由があります。
なんでこんなに違うのか——3つの理由
① 贈与税と相続税、税金がかかり始めるハードルが全然違う
生きている間に財産を渡すと「贈与税」、亡くなった後に渡すと「相続税」がかかります。この2つ、税金がかかり始めるまでのハードルがまるで違います。
贈与税は年間110万円を超えたらかかります。相続税は3,000万円+600万円×法定相続人の数を超えなければかかりません。相続人が2人なら4,200万円まで、3人なら4,800万円までは非課税です。
多くのご家庭では相続税はかかりません。でも生前に贈与すれば110万円を超えた分に贈与税がかかります。1,000万円の不動産なら177万円、2,000万円なら585万5千円の贈与税が発生します(計算根拠:国税庁 No.4408 贈与税の計算と税率)。
② 登録免許税——相続0.4%、贈与2%
不動産の名義を書き換えるときにかかる登録免許税は、相続か贈与かで税率が変わります。
| 登記原因 | 税率 |
|---|---|
| 相続 | 固定資産税評価額 × 0.4% |
| 贈与 | 固定資産税評価額 × 2% |
1,000万円なら相続4万円・贈与20万円。2,000万円なら相続8万円・贈与40万円。5倍の差です。
③ 不動産取得税——相続は非課税、贈与はかかる
不動産を取得した人に課税される不動産取得税は、相続では非課税(0円)です。贈与では課税されます(総務省 不動産取得税)。
土地・住宅の税率は3%(令和9年3月31日まで特例税率)。固定資産税評価額1,000万円の住宅であれば概算30万円前後、2,000万円であれば60万円前後です。軽減措置の内容は物件によって変わるため、詳細は愛知県の不動産取得税ページをご参照ください。
相続時精算課税を使えば贈与税は減らせる——でも登記費用は変わらない
「相続時精算課税という制度を使えば贈与税がかからないと聞いた」というご相談もあります。
相続時精算課税は、一定の要件を満たす贈与について、累計2,500万円の特別控除に加え、令和6年1月1日以降は年間110万円の基礎控除が使えるようになった制度です(国税庁 No.4103)。
1,000万円の不動産であれば、この制度を使えば贈与税を0円にすることができます。
ただし、登録免許税と不動産取得税は変わりません。
| 相続 | 贈与(相続時精算課税) | |
|---|---|---|
| 贈与税 | 0円 | 0円(特別控除内) |
| 登録免許税 | 4万円 | 20万円 |
| 不動産取得税 | 0円 | 約30万円〜 |
| 合計目安 | 約4万円 | 約50万円〜 |
贈与税がゼロになっても、生きているうちに名義を動かせば登記費用は高くなります。相続と比べると40万円以上の差が残ります。
本当に生前贈与が有効な場面——収益不動産の収入を早期に移す
生前贈与が有効な場面もあります。収益不動産(アパート・駐車場など)の早期移転がその代表です。
たとえばアパートを持つ親が、毎年家賃収入を積み上げていると、将来の相続財産がどんどん増えていきます。相続時精算課税を使って早めに子へ移転しておくと、移転後の家賃収入は子の財産として積み上がり、親の相続財産から外れます。
手続き費用が50万円かかったとしても、年間100万円の家賃収入が子のものになるなら、1年で元が取れる計算です。毎年の収益が大きいほど、早期移転のメリットが出やすくなります。
「今すぐ費用がかかってでも、将来の相続税を抑えたい」という目的がはっきりしている場合は、生前贈与が合理的な選択肢になります。ただしこの判断は相続税の試算が必要ですので、提携税理士と連携してご案内しています。
「将来確実にあの子に渡したい」なら——遺言書という選択肢
「費用がかかってもいいから、同居している子にこの不動産を確実に渡しておきたい」という場合があります。
そのとき、私、尾張が必ずお聞きするのは「今すぐ名義を動かす必要がありますか?それとも、将来その子に渡ればそれでいいですか?」という質問です。
「将来確実に渡ればいい」のであれば、遺言書という手段があります。遺言書に「この不動産は○○に相続させる」と書いておけば、相続発生時に確実に権利を移すことができます。生前に名義を動かさなくていいので、登録免許税の差額も不動産取得税もかかりません。
なぜ渡したいのか、いつ渡したいのか、どうやって渡したいのか——この3つの答えによって、最適な方法がまったく変わります。「なんとなく生前贈与した方がいいかな」という段階でお越しいただいても構いません。一緒に整理します。
まとめ
- 贈与税がかかり始めるのは年間110万円超。相続税は3,000万円+600万円×相続人数まで非課税。税金のかかり方がまるで違う
- 登録免許税は相続0.4%、贈与2%——1,000万円の不動産で4万円 vs 20万円
- 不動産取得税は相続非課税、贈与はかかる(住宅の場合3%)
- 相続時精算課税で贈与税をゼロにしても、登記費用の差は埋まらない
- 収益不動産の早期移転など、明確な目的がある場合は生前贈与が有効なケースもある
- 「今すぐ名義を動かしたい」のか「将来確実に渡ればいい」のかで、遺言書の方が適している場合もある
「とりあえず生前贈与」は、不動産の規模によっては数百万円単位の余分な費用が発生します。目的と状況を整理してから動いてください。
相続をおわりに。
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【執筆者】
司法書士尾張由晃 司法書士法人せと事務所代表
愛知県司法書士会 登録番号:第1981号
蟹江町在住、実務歴10年以上。同じ地元民として、単なる事務作業ではない「生涯に寄り添うサポート」をお約束します。
最終更新:2026年5月20日
