相続の相談会でダントツに多いご質問があります。
「遺言書の書き方を教えてください」
「相続をおわりに。」司法書士の尾張です。
気持ちはよくわかります。でも、書き方より先に考えることがあります。
この記事では、「そもそも自分に遺言書が必要かどうか」を一緒に確認していきます。
目次
「書き方」より先に考えること
ドリルの使い方を覚えても、どこに穴を開けたいかが決まっていないと意味がない——遺言書もそれと同じです。
遺言書で実現できるのは、大きく2つです。
「思いの実現」と「問題の回避」
「財産はすべて妻に渡したい」という思いを実現すること。
「相続人の仲が悪くて手続きが揉めそう」という問題を回避すること。
この2つのどちらかが明確にある方には、遺言書が有効な手段になります。
逆に言えば、これがなければ必要ないかもしれません。
書き方は手段にすぎません。「何のために書くか」が先です。
必要ない人もいる——まず正直に言います
遺言書のセミナーを終えた後の個別相談で、「ウチには必要ですか?」と聞いてくる方がいます。
その場で家族構成を聞いてみると——「親一人、子一人」のケースでした。
即答しました。「全くいりませんよ」
相続人は子どもだけ。話し合いの必要もなく、手続きは一本で終わります。
「そうなんだ、よかった!」とスッキリした顔でお帰りになりました。
遺言書はすべての人に必要なわけではありません。
でも、どこかから「必要かも」という情報を得て、不安になっている方は少なくないようです。
まずは「本当に必要かどうか」を確認するところから始めましょう。
6つのパターンをチェック
以下のチェックリストで確認してみてください。
- □ 子どもがいない夫婦である
- □ 再婚していて、前の配偶者との間に子どもがいる
- □ 子どもに、障害がある・行方不明・長年疎遠などの事情がある
- □ 相続人の間で、仲が悪い・折り合いがつかない事情がある
- □ 主な財産が不動産で、相続人の間で分けにくい状況にある
- □ 婚姻関係のないパートナー(内縁・事実婚)がいる
一つでも当てはまった方は、遺言書の必要性が高い可能性があります。
以下でパターン別に詳しく解説します。
パターン別の解説
① 子なし夫婦
「夫が亡くなったら、財産は全部妻に」——そう思っている方が多いですが、法律はそうなっていません。
子どもがいない場合、配偶者だけが相続人になるわけではないのです。
夫に子どもがいなければ、次の順番は直系尊属(父母・祖父母)、
それもいなければ兄弟姉妹、さらに甥・姪に相続権が移ります(民法第889条)。
→ 法定相続人の順位の詳細はこちらの記事で解説しています。
つまり、血のつながりのない義理の兄弟姉妹や甥姪と、お金の分け方の話をしなければならない状況が生まれます。向こうにも法律上の権利があるため、「渡したくない」では済まないケースもあります。
こういう状況が見えているなら、夫婦で相互に遺言書を書いて、どちらかが亡くなっても残った配偶者がすべてを受け継げるようにしておくのがベストです。
さらに、最終的に残ったほうも亡くなる場面を想定して、「その財産を誰に渡すか」まで決めておくと安心です。
ただし、ケースによっては片方だけで十分なこともあります。
以前、配偶者の兄弟姉妹ととても仲が良く、「あの人たちとは話し合えるから、自分だけ書けばいい」とおっしゃった方がいました。まさに「家庭の状況次第」という話です。
遺言書があれば:配偶者がすべてを受け継ぐことが明確になり、義理の親族との協議が不要になります。
② 再婚していて、前の配偶者との間に子がいる
離婚すると親権を失うことはありますが、相続権は消えません。
前婚の子は、現在の配偶者との子と同じく第1順位の法定相続人です。
遺言書がなければ、前婚の子と現在の家族が一緒に遺産分割の話し合いをすることになります。感情的なもつれも重なり、まとまらないケースが多いです。
遺言書で「現在の妻に全財産を相続させる」と書いておくだけで、この状況を大きく回避できます。前婚の子にもある程度渡したいという場合は、割合を指定してもOKです。
実際に相談に来られた方のケース
「前婚の子に少し、残りは現在の妻に」という内容の遺言書をすでに書いていて、「これでいいですか?」と持ってきた方がいました。
話を聞いてみると——「何十年も会っていないし、今更自分の存在を知らせたくない。でも権利があるから渡さないといけないと思っていた」とのことでした。
ここで大事な話をしました。
遺留分という制度があり、一定の相続人は最低限の取り分を請求できます。ただしこれは、遺留分権利者が自ら請求して初めて効力が生じる制度です(民法第1042条以下)。請求がなければ、支払い義務は生じません。
→ 遺留分の詳細・権利者の範囲・計算方法・時効はこちらの記事をご覧ください。
「自分が死んでも、相手には知らせることもしてほしくない」とのことだったので、遺言書を書き換えました。内容は「すべての財産を配偶者に相続させる。配偶者が先に亡くなっていた場合は現在の子に」という内容です。
もう一点、この遺言書には遺言執行者を指定しませんでした。
遺言執行者は、就任後に遺言の内容をすべての相続人へ通知する義務があります(民法第1007条)。指定していなければ、その通知も発生しません。遺言執行者の使いようというのも、こういうところにあります。
遺言書があれば:前婚の子との協議が不要になります。遺留分請求があった場合の対応は必要になりますが、少なくとも「全員での話し合い」の場を避けることができます。
③ 子に障害がある、行方不明、長年疎遠など
相続手続きには、法定相続人全員の関与が必要です。
ただ、さまざまな事情でそれが難しい場合があります。
子どもに障害がある場合、判断能力によっては手続きへの関与に支障が生じます。そのとき必要になるのが成年後見制度です。ただし成年後見は、遺産分割が終わった後も簡単に終われません。一度始まると、本人が亡くなるまで続く制度です。
行方がわからない相続人がいる場合は、不在者財産管理人を家庭裁判所に選任してもらい、管理人が手続きに関与する形になります。その後も管理手続きが続きます。
こうした事情が事前にわかっているなら、遺言書でできる限り問題を整理しておくことが大切です。
遺言書があれば:遺言執行者が手続きを進めるため、難しい事情を抱える相続人を協議に巻き込まずに済むケースがあります。
④ 相続人の間で仲が悪い
家族といってもさまざまで、長年の中でいろいろな思いが積み重なっている場合もあります。
「あの人には多く渡したくない」「特定の人だけに多く渡したい」という希望がある場合もありますし、当事者たちが「きちんと話し合うつもり」でも、いざとなると感情がこじれてしまうこともあります。
金銭だけの相続で、法定相続分どおり二分の一ずつにするだけの話なのに、
折り合いがつかなくて双方が弁護士を立てての手続きになっている家庭に関わったことがあります。
弁護士費用が相続財産の額を上回りかねない状況でした。
遺言書があれば、執行者がその内容に従って手続きを進めるだけで済んでいた話です。
遺言書があれば:相続人の感情に関わらず、遺言の内容が優先されます。「話し合い」の場そのものをなくせる場合があります。
⑤ 主な財産が不動産で分けにくい
「ウチは財産が少ないから揉めないよ」という方が多いのですが、問題になるのは財産の多寡より分けにくさです。
たとえば、残された財産が「長男が住んでいる実家(評価額1,000万円)」と「現金300万円」で、相続人は長男・次男の2人だったとします。
- 長男が不動産をもらって、次男は現金300万円だけ?→ 不均衡
- 長男が不動産を売って次男に350万円払う?→ 住む家がなくなる
- 二人で共有にする?→ 将来また揉める原因になる
答えが簡単には出ません。
こういう場合には、「不動産は長男に相続させる。その代わり現金は次男に」と遺言書で決めておくか、「売却して分けなさい」と指定しておくかが現実的です。遺留分との兼ね合いや遺言執行者の準備も含めて、きちんと設計しておく必要があります。
遺言書があれば:「誰が何を相続するか」が決まっているため、分けにくい財産をめぐる争いを防ぎやすくなります。
⑥ 婚姻関係のないパートナーがいる
最近、事実婚や内縁関係のパートナーがいる方からのご相談も増えています。
結論から言うと、法律上の婚姻届を出していないパートナーには、相続権がありません。
どれだけ長く一緒に暮らしていても、どれだけ深い関係であっても、法定相続人にはなれないのです。遺言書がなければ、パートナーには一切財産が渡りません。
逆に言えば、遺言書さえあれば渡せます。
「○○(パートナーの名前)に全財産を遺贈する」と書いておくことで、法的に財産を渡すことができます。
ただし、他に法定相続人(子・親・兄弟姉妹など)がいる場合、遺留分権利者から請求が来る可能性はゼロではありません。その点も含めて設計しておく必要があります。
「籍を入れていないから、財産の話は関係ない」ではなく、「籍を入れていないからこそ、遺言書が必要」というケースです。
遺言書があれば:大切なパートナーに、きちんと財産を渡すことができます。何もしなければ、その方の手には何も渡りません。
いつ書けばいい?
「遺言書はそのうち書こう」と思っている方へ、一点お伝えしておきます。
公正証書遺言は、公証役場に出向いて公証人に作成してもらいます。体力的・認知的に問題がある状態では難しくなります。
自筆証書遺言は、認知症が進んだ状態で書いたものは有効性を争われるリスクがあります。
どちらも、元気で判断能力がしっかりしているうちに書くのが鉄則です。
「必要になってから」では遅くなる場合があります。思い立ったときが、書き時です。
事業をされている方は、遺言書だけでなく生前からの対策が必要になるケースも多いです。早めにご相談ください。
まとめ
| パターン | 遺言書が必要な主な理由 |
|---|---|
| 子なし夫婦 | 配偶者に全部いかない。義理の親族との協議が発生する |
| 再婚・前婚の子あり | 前婚の子も相続人。感情的な対立になりやすい |
| 子に事情あり | 全員での手続きが困難。成年後見・不在者管理人が必要になる |
| 相続人間が不仲 | 協議が難航。弁護士費用が財産を上回ることも |
| 不動産中心の財産 | 分けにくさが争いの原因になる |
| 内縁・事実婚のパートナーあり | 相続権ゼロ。遺言書がなければ何も渡せない |
遺言書は「争いを防ぐ」ためだけでなく、「自分の思いを実現する」ための書類です。
「書き方」を覚えることより、「何を書きたいか」を考えることが先です。
その整理のお手伝いから、当事務所は対応しています。
→ 遺言書の種類(自筆・公正証書・法務局保管)の違いと費用についてはこちらの記事で解説しています。
相続をおわりに。
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【執筆者】
司法書士尾張由晃 司法書士法人せと事務所代表
愛知県司法書士会 登録番号:第1981号
蟹江町在住、実務歴10年以上。同じ地元民として、単なる事務作業ではない「生涯に寄り添うサポート」をお約束します。
参考
- 民法(e-Gov法令検索)
- 最終更新日:2026年4月27日
