予備的遺言とは——受取人が先に亡くなったとき、遺言書はどうなる?
遺言書を作るとき、多くの方が「誰に渡すか」で頭がいっぱいになります。
「相続をおわりに。」司法書士の尾張です。
もう一つ、必ず考えてほしいことがあります。「受取人が先に亡くなっていたら、どうなるか」です。
目次
- 遺言書を作ってから使うまで、時間がかかる
- 受取人が先に亡くなると、遺言はどうなるか
- 無効になったらどうなる?——法定相続に振り出しに戻る
- 困る場合がある——そのために備えるのが予備的遺言
- 問題解決のための遺言——問題が再発するケース
- 想いの実現のための遺言——死ぬ順番だけで行き先が変わるケース
- どこまで想定しておくか
- 予備的遺言が不要なケース
- 専門家の仕事——問題を把握し、想いを聞いて、文案を作る
- まとめ
遺言書を作ってから使うまで、時間がかかる
遺言書は「誰々に財産を渡す」と書く書類です。ただ、作った日に使うわけではありません。
遺言書を作ってから、実際に使う日——つまり遺言を書いた方が亡くなる日——まで、10年、20年、30年かかることはざらにあります。
その間に、状況は変わります。受取人が先に亡くなっていた、というのもその一つです。
受取人が先に亡くなると、遺言はどうなるか
「全財産を妻に相続させる」という遺言書があって、妻が先に亡くなっていた——このとき、遺言はどうなるか。
全財産を妻に、と書いていた場合:その遺言書は全部、効力を失います。
財産の一部だけ指定している場合は、その部分だけが無効になります。「半分を妻に、残り半分を長男に」という遺言書で、妻が先に亡くなっていたなら、妻への半分だけが無効です。長男への半分はそのまま有効です。
無効になったらどうなる?——法定相続に振り出しに戻る
無効になった部分は、法定相続に戻ります。
法定相続に戻るということは、法律上の相続人が全員集まって「その財産をどう分けるか」を話し合うことになります。遺産分割協議書を作って、手続きを進める——遺言書がなかった場合と同じ流れです。
せっかく遺言書を書いたのに、振り出しに戻るわけです。
困る場合がある——そのために備えるのが予備的遺言
振り出しに戻っても困らない場合は、それで構いません。
問題は、「振り出しに戻ったときに困る場合」です。遺言書を作った理由が何だったかによって、困り方が変わります。
手続きをうまく進めるために遺言書を書いていた。でも受取人が先に亡くなって遺言が無効になった。法定相続に戻ったら、また同じ問題が再発する。
あるいは、「誰に渡したいか」という想いを実現するために遺言書を書いていた。でも受取人が先に亡くなっていたために、想いが実現しない結果になってしまう。
そのために備えるのが予備的遺言です。
予備的遺言とは、受取人が先に亡くなっていた場合の受取人を、あらかじめ遺言書に書き加えておくことです。
「財産の半分を妻に相続させる。ただし妻が私より先に亡くなっていた場合は、妻に渡すはずだった財産については長男に相続させる」
この「ただし以下」の部分が予備的遺言です。受取人が先に亡くなっていても、次の受取人に引き継げるので、法定相続に戻りません。
問題解決のための遺言——問題が再発するケース
遺言書を作る理由の一つに、「手続きを円滑に進めるため」があります。
相続人の中に行方がわからない方がいる。認知症の方がいる。障害のある方がいる。そういった場合、遺産分割協議はまとまりません。遺言書があれば協議なしで手続きが進みます——だから遺言書を作った、というケースです。
このケースで予備的遺言がないと、こうなることがあります。
受取人(たとえば妻)が先に亡くなっていた。遺言が無効になって法定相続に戻った。結局、行方不明の方を探し出して協議に参加してもらうか、認知症の方に成年後見人をつけて参加してもらうかしないといけない。せっかく解決したはずの問題が、堂々巡りになってしまいます。
「長男・次男に均等に半分ずつ」という遺言書でも同じことが起きます。どちらかが先に亡くなっていた場合、その部分の遺言が無効になって法定相続に戻る。行方不明の相続人が絡んでいれば、また同じ問題に直面します。
想いの実現のための遺言——死ぬ順番だけで行き先が変わるケース
遺言書を作る理由のもう一つが、「誰に渡したいかという想いを実現するため」です。
子なし夫婦の遺言書でも触れましたが、予備的遺言がない場合、こういうことが起きます。
夫2,000万円・妻2,000万円の財産を持つご夫婦。兄弟姉妹に渡らないよう、夫婦相互遺言を作った。
- 妻が先に死亡 → 夫に全財産(計4,000万円)→ 夫が亡くなったとき「全財産を妻に」→ 妻はすでにいない → 遺言無効 → 法定相続 → 夫の兄弟姉妹に4,000万円
- 夫が先に死亡 → 妻に全財産(計4,000万円)→ 妻が亡くなったとき「全財産を夫に」→ 夫はすでにいない → 遺言無効 → 法定相続 → 妻の兄弟姉妹に4,000万円
ただの死ぬ順番だけで、4,000万円の全財産がどちらかの家族に行きます。
それでいいなら問題ありません。理不尽に感じるなら、予備的遺言で次の行き先を決めておく必要があります。
選択肢はいくつかあります。
- お互いの兄弟姉妹にそれぞれ分けて残す
- 2人で縁のある団体・自治体・福祉機関に寄付する
私、尾張が担当したケースでも、「兄弟姉妹に渡っても生活に良い影響があるわけない。それなら寄付したい」とおっしゃって、名古屋市や特定の団体への寄付を遺言書に書いた方がいらっしゃいます。遺言書は自分の財産をどうしたいかという意思表示ですから、そういった選択も全く問題ありません。
どこまで想定しておくか
予備的遺言で次の受取人を決めたとして、「その受取人も先に亡くなっていたら?」という疑問が出てきます。
遺言書を作ってから使うまで10年、20年、30年かかることを考えると、配偶者(同世代)が先に亡くなっている可能性は十分あります。子世代も、10年後・20年後・30年後に事故や病気で先に亡くなっているということは大いにあり得ます。
私、尾張の事務所では、次のような考え方で整理しています。
配偶者への遺言: 同世代なので、必ず予備的遺言で次の受取人を決めます。
子への遺言: 子が先に亡くなっていた場合も想定します。その子に子(孫)がいれば孫に均等に相続させる、子がいなければ残ったきょうだいに渡す、結婚していれば配偶者に渡す——どうしたいかをヒアリングして決めます。
どこまでやるか: 一般的には、孫の代まで指定しておくのが目安です。それ以降については「法定相続人に従う」という書き方にしておくと、きりがなく続くことを防げます。
予備的遺言が不要なケース
予備的遺言がすべての遺言書に必要かというと、そうではありません。
受取人が先に亡くなった後の法律関係を確認して、問題も理不尽さもない場合は不要です。
一つ例を挙げます。障害のある子がいるご夫婦が夫婦相互遺言を書いたケースです。遺産分割協議なしで手続きを進めるために遺言書を作ります。
- どちらかが亡くなったとき → もう一方が全財産を相続。協議不要 ✓
- 両親が両方亡くなったとき → 子に全財産が行く。協議不要 ✓
遺言書を作った目的である「協議を飛ばす」は、両方の場面で達成されています。この最終状態については、予備的遺言は必ずしも必要ではありません。
専門家の仕事——問題を把握し、想いを聞いて、文案を作る
私、尾張が遺言書を作成するとき、受取人が先に亡くなっていた場合を必ず確認します。
「奥様が先にお亡くなりになった場合、どういう状況になりますか?それは問題ありませんか?」「逆にご主人が先の場合は?」「お子様が先に亡くなっていた場合は?」と、想定される場面を一つひとつ確認していきます。
手続き上の問題が残るか。それとも想いの実現が阻まれるか。問題がなくなるところまで、一緒に確認して文案を作ります。
「見通せない未来に対して当たりをつけて、できるだけ問題が発生しないようにしていく」——それが専門家としての仕事です。
遺言書を作った後でも、家族の状況は変わります。受取人に先立たれた、新たに相続人が増えた、財産の内容が変わった——そういった変化があれば、遺言書の見直しが必要になることがあります。状況が変わったときは、またご相談ください。
まとめ
- 遺言書を作ってから使うまで10年・20年・30年かかることがある。その間に状況は変わる
- 受取人が先に亡くなると、その部分の遺言は無効になり、法定相続に戻る
- 振り出しに戻って困る場合——問題が再発するケース、想いが実現しないケース——に備えるのが予備的遺言
- 「ただし○○が先に亡くなっていた場合は△△に」と書き加えることで、法定相続に戻らずに済む
- 目安は孫の代まで指定しておくこと。それ以降は「法定相続人に従う」という書き方でよい
- 受取人が亡くなった後の法律関係で問題が生じない場合は不要
- 問題がなくなるところまで想定して文案を作るのが専門家の仕事
相続をおわりに。
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【執筆者】
司法書士尾張由晃 司法書士法人せと事務所代表
愛知県司法書士会 登録番号:第1981号
蟹江町在住、実務歴10年以上。同じ地元民として、単なる事務作業ではない「生涯に寄り添うサポート」をお約束します。
最終更新:2026年5月20日
