ネット上の相談への回答はなぜこうも極端に振れるのか(悲しい)
公開日: 19:55
引っ越しするんだけど、これごねってもいいのか
http://anond.hatelabo.jp/20150813105453
上記の記事を見ました。簡単な内容としては以下の様なもの。
http://anond.hatelabo.jp/20150813105453
上記の記事を見ました。簡単な内容としては以下の様なもの。
- 上の階の人の騒音がうるさすぎて、注意してもらっても改善がない。
- 上階の人が実は大家さんの家族で追い出されることは無いのでうるさくしていた。それにムカつく。
- 大家さんの関係者のせいで引っ越すことになったのに、契約満了までに引っ越すと違約金を支払えと言われた(一月分4万円)。
という感じ。そしてこれに対しての読者の反応が
- 違約金の件は戦ったら多分勝てる。
- 「近所で真夜中に幼児が泣き叫んでいる、虐待では?」と非通知にて児童相談所に通報おすすめデス☆彡
- 法律の無料相談だよなあ。
- 少額訴訟利用すればいいよ。
- 違約金なんかかかるわけない。
- 警察に通報だなあ。
みたいな感じ。こういう問題の時にいっつも思っていることがあるのでちょっと書いておきたくなったので書いてみます。
・勝てるのと得するのと幸せになるのは別
こういう場合、勝てるとか勝てないとかって話にする人が多いですが法律相談を受ける側からするとそういう話をする人ってあんまりいない。
状況聞いて、向こうが不当であれば、根拠を伝えてよく話し合うのが大事だよ。って言う人が多い。
これは勝てる!少額訴訟だ!裁判だ!っていう人は相談を受ける人としてヤバイ。
訴訟って裁判所っていうお役所を通すので「手続き」って感じになるんだけれども、実際は人と人との争いなので、争いを煽る奴にろくな奴はいない。
・訴訟って得しないよ
今回の係争額は4万円。裁判は勝訴すると裁判費用は敗訴した方の負担となりますが、代理人費用(弁護士とか司法書士の報酬)は自分持ちです。認められたとしても2割くらい。
なので、代理人を使うと勝訴しても赤字になるので全部自分でやることになります。訴状書いて、証拠集めて、平日に裁判所に出頭して、裁判して…。
これを自分で調べて自分でやる。そんなに難しいことではないですけれど、大変にめんどくさいです。
そして勝ったとしても、向こうが払ってくれる保証はありません。
ワタシも昔は知らなかったんだけど裁判に勝ったからってお金を払ってもらえる保証はない。
負けた人の資力とか意思次第になる。だから2ちゃんねるの元管理人さんとかは裁判に負けても一銭も払わずにいるらしいですね。
そういう払ってくれない人の場合は相手の財産を調べて、差し押さえをして、取り立てをして…と進んでいきますがこれも全部自分でやります。四万円のために。
そして個人的に何より大きいと思うのが、裁判中って「ずっと人と対立しなきゃいけない」ということです。
裁判って正式な手続きではあるんだけれど、結局はケンカで、俺が正しい!お前が間違ってる!って相手と言い合いを続けるわけです。
その間ずっと、自分がされた不当な対応や、正しい行いが認められなかったということを見つめて、向き合っていかなきゃいけないわけです。
少額で裁判をしてる人もたくさんいるんですけれど、個人でやってる場合って金銭的利益を得るためよりも「相手が許せない」とか「間違いを認めさせたい」といった感情面がメインで裁判をしてることが多い。
そうなると、裁判期間中ずーっと怒ってたり、悲しんでたり、恨んでたりしなきゃいけない。
それって勝っても幸せなのかなー。って思うんです。
・勝とうとすると戦わなきゃなんない
嫌なことや辛いこと、悲しいことがあった時にどうにかしようと対処するよりも、すぐに忘れることが出来る。ってのが生きていく上ですごく大切な資質だと個人的に思っていまして。
勝とうとする人は何かあるごとにケンカをすることになって、人と争わなきゃなくなって、嫌なことや怒った感情が長引いちゃう。
嫌なことを忘れようとする人はケンカの火種があってもスパーっと忘れちゃってケンカには発展せずに嫌な思いはそこまでよ。っと。
逃げるが勝ちじゃないけど、勝つことにこだわるのって考えものだと思う。
・どう対処するのがよろしかろうか
とはいえね、司法書士って依頼者の意向に沿って動くものですから、どうやるのが良いかなーって考えていました。
上記の「警察や児童相談所に通報」ってのはやめたほうがいいです。
近隣トラブルってーのは波を立てないのが重要です。利害関係人が近くにいるので虫の居所が悪い時に近隣の人にイラッとしたらすぐに行動に出られるので暴力事件などに発展しやすい。
身の安全よりも大事なものはないわけで、すでに騒音で火種があるので、逆恨みでなにかされる可能性がある。
というか、もう退去は決定で違約金の正当性を聞きたかったそうなので、この意見は今回はちょっと違いますね。
あと、「違約金については勝てる」っていうのは長くなるから後述するけれど微妙だと思う。契約書の内容によっちゃ負けんじゃねーかなと思う。
・自分ならどうアドバイスするか
個人的には敷金返ってこなくても、そのまんまササーッと引っ越しちゃって忘れちゃうのが一番だよ!
って思うんだけれど、どうしても取り返したい!っていうのならば「家賃を払わず滞納した状態で引っ越す」ってのがいいのではないかと思いました。
借り主 大家さん(手元に敷金4万円)
敷金4万円返せ →
← 違約金4万円は敷金と相殺しておくね!
現状、こういう状況になってて差し引きゼロ。本来なら帰ってくる敷金が帰ってこないので、取り返そうとしたら借主側から何らかのアクションを起こさないといけない。
で、ここで借り主が一ヶ月分家賃を滞納したら
借り主(家賃滞納4万円) 大家さん(手元に敷金4万円)
滞納家賃は敷金でおK →
← 滞納家賃と敷金相殺なら違約金4万円を払え!
ということで、借り主は敷金回収したのと同様。大家さんが違約金を取り立てようとすると次にアクションを起こさなきゃいけなくなったのは大家さんに。
大家さんが法律家費用を払って訴訟を始めるか、泣き寝入るか。って状況に。
4万円のために訴訟を起こす大家さんはよっぽどだと思うし、支払督促来たり訴訟されちゃったらその時に応戦するかパパっと払って終わらせちゃうか決めればいいんじゃないかな。
と、長々と書いてきたんですけども言いたいのはネット上の相談?のようなものだと法的に、また、心情的に正しい方は屈せず間違っている方をやっつけろ!みたいな風潮が強いように思う。
泣き寝入るという言い方は悪いけど、良くない人やものからさっさと離れるっていうのが良い場合もある。
生活上の問題って法律や慣習、常識がからみ合ってて、正しくてもどうしようもない場合もあるし中途半端な知識だと損しちゃうこともある。
いろんなことを勘案して、極端に振れずに相談者の方の希望に沿った、負担の少ない方法を提案できる優しいインターネッツになってほしいと思っているわけなのでした。
で、以下は違約金についての検討です。もうほぼ言いたいことは言い終わってるけど一応書いておくね!
・違約金がかかるのかかからないのか
一般的な慣習で二年契約といえば「二年間はこの内容で契約しようね。二年後に更新ね(何も言わなければ自動更新)」っていう地域が多いと思い。
その場合というか一般的な賃貸契約書のひな形には解約するときは一ヶ月前に言ってくれたらお金を払わず解約できるよ。って書いてあるのが通常。なので、もしかしてこれを書いた人は「明日引っ越します!」「じゃあ一月分敷金から引いておくね」ってなった可能性もある(そこは書いてない)。
他に「二年以内に退去する場合は二年に満たない部分に相当する賃料相当額を支払う」とか「二年以内に退去する場合は短期解約金として一ヶ月分の賃料を支払う」みたいな条項が入っていると話はちょっと変わってきます。
(賠償額の予定)第420条
1. 当事者は、債務の不履行について損害賠償の額を予定することができる。この場合において、裁判所は、その額を増減することができない。
2. 賠償額の予定は、履行の請求又は解除権の行使を妨げない。
3. 違約金は、賠償額の予定と推定する。
民法第420条で、契約と違う状況になったら違約金を決められるという条文があって、こういう約束をするのは特段問題ありません。
で、実際[東京地裁平成8年8月22日]の裁判例で、契約期間四年の物件を一年未満で解約した際にオーナー側が残りの三年ちょっと分を請求して、裁判所は「違約金として請求するのは認めるけど、三年はやりすぎやろ~。一年にしとき」というものがあります。
なので相当長期じゃなければ違約金の条項は有効だと思われます。一ヶ月分の違約金は有効っぽい。
あとは、中途解約の定めがなかった時。二年契約してるってことは、借り主としては二年間は追い出されない、貸主としては二年間家賃が入ってくるっていう双方にメリットが有る。
でも中途解約していいって条項がないのに借り主から解約しちゃったら貸主が損しちゃう。なので、新たに借り主が見つかるまでの相当期間の違約金を請求する。っていうのも成り立つ。
これも長期だと無理な感じするけど、一ヶ月分なら通るでしょう。
あとは消費者契約法のからみになってくるけれども、一ヶ月分ならば不当と言えるほどじゃないから違約金は成立しそうな気がしますね。
まぁ、どれも全部契約内容見なきゃわかんないんだけどね。