本当は怖ろしいはんこの効果
司法書士として働いていて「はんこ」というものに触れることが多く、少し知識もついてきました。生活する中で必要になることが多く、大事だけれど実はよくわからない「はんこ」について、まとめてみました。
目次
・はんこ本体(印章)とはんこの跡(印影)について
・はんこ(本体)の種類について
○実印
○銀行印
○認め印
○その他の印章について
・はんこってどんな効力があるのか
の、大きくは三本立てでお送りします。
・はんこ(本体)とはんこ(押された後の印影)について
「はんこ」という言葉を日常生活で普通に使いますが、それには二つの意味がまぜこぜになって使われています。はんこ本体のことを印章、はんこをおした後に残る跡が印影です。
印章(はんこ本体)にも印影(はんこの跡)にもいろいろな種類がありまして、実印、銀行印、認め印、割印、契印、捨印、訂正印などなど色々あってそれぞれに意味や効果があって、ややこしいけどちょっとおもしろいんです。
今回ははんこ本体について書いていきます。
・実印とはなんぞや
一般的に印鑑は大事なものという印象がありますが、その中でも最も重要だとされているのが、実印です。不動産の手続きや、車の購入手続きでは実印でなければ出来ない手続きがあります。
私の親世代(団塊世代くらい)の頃には成人したら高価な実印を親などから贈られて、もしくは自ら作って大人感を覚えていたそうです。
私も作れと言われていくらかかるか聞いたら凄かったので未だに実印は持っていません。
その実印っていうのは何かというと、「市役所や区役所などに印鑑登録届けを出した印鑑の事」を言います。なので、実際はどんな印鑑でもいいんです。俺が聞いたあの値段は何だったんだ。
印鑑登録は法律ではなく自治体の条例で決まっていますので自治体によって違います。大阪市では以下のような規定があります。
“同一の形態の印鑑が量産されたものは、完全に登録を拒否することはできないが、他人が不正使用する恐れもあり、好ましくないので、これに該当すると認められるときは変更するよう指導する必要がある。”
100円均一の印鑑は「ダメじゃないけど、嫌だなぁ」って感じの規定で、100円均一の印鑑でも登録出来なくはないです。ふんわりした規定が良いよね。
印鑑証明書って見たこと無い人多いかも知れませんが私も司法書士始めるまで知りませんでした。こんな感じのやつです(適当)。これがあればこの印鑑が実印。
以前、テレビショッピングで「実印と銀行印と認め印の3点セット」というものを売っていました。
実印が一番大きくて立派でしたが、立派さとか値段とかは実印かどうかには関係ありません。というか通販時点では印鑑登録していないから実印でもないし銀行印でも無いです。なんとなく立派さが違う印鑑三本セット、だね。
けれど、高価で複雑な字体のものが実印!と考えてらっしゃる方がちょくちょくいます。
どうしても実印でないといけない書面に押印いただいた際に「私は実印作ってないからね…」って言われてものすごく焦った。
じゃあなに、この今押してる赤いスタンプ何!?デコレーション!?可愛くデコってるの!?
って思いながら印鑑証明書見たら実際は実印で「実印(=高価で立派な印鑑)を作ってないからね」という意味で助かった。
・では銀行印は
こちらはよく知られていると思いますが、銀行印は「銀行で口座を作る際に押印した印鑑」の事です。
こういうやつね。ちなみにこの印鑑は全く使ってませんし銀行口座も作っていない。
銀行の何かの手続きの際には銀行印が必要となることが多く、銀行印よりも大事だと言われる実印を用いたとしても、印鑑が違うと言われて手続きが進みません。法ではなく銀行ルールになるので銀行さん次第という感じです。
実印は住民票に記載されているフルネームか、苗字だけ、名前だけじゃないと登録できない自治体が多いですが、銀行はそこら辺緩やかなところもあって、いわゆる痛印とか言われるアニメキャラが書かれた印鑑なんかでも通ったりするそうです。
なので100円均一の印鑑も大体の銀行で銀行印にすることが出来るかと思います。実印と銀行印、認め印の三本セットの意味がまた揺らぎますね。そして実印登録した印鑑と同じ印鑑を銀行に届け出る事もできます。
・さて認め印
次に認め印とはなんぞや。認め印とは「実印や銀行印の様に特別な効力がある印鑑「ではない」もの」が認め印と言われます。
認め印には一般的なはんこの効力しかなく、銀行でお金を下ろせたりしないし、不動産手続きで特別に要求される事はありません。
逆に全てのはんこには「一般的なはんこの効力」はありますので実印も銀行印も認め印としての効力はあって、認め印として使うことが出来ます(ややこしいね!)。
こういう感じにしたら実印であり銀行印であり認め印という最強のやつです。
そしてもちろん、100円均一の印鑑でOKです。前述の「実印、銀行印、認め印の3点セット」という売り方は印鑑を分けることによってのリスク管理という面もあるかも知れませんが、はんこ業界のセールス手法なんじゃないか。
・その他のはんこは
一般生活を送る上で通常使うはんこ本体は上記の三種類でほぼ全て(会社やってる人は会社実印もかな)です。
シャチハタのはんこ、インクが自動でにじみだしてきて朱肉を付ける必要がない便利なやつ、あれははんこ(印鑑)ではありません。はんこ(印鑑)は同じはんこの印影がずっと同じで同一性を確認することが出来るのが重要なので変質しやすく、押し方で形が変わるゴム印ははんこ(印鑑)とは認められていません。
そして、たまーに「訂正印」という役割のはんこ本体をお持ちの方がいます。何か間違った時はそのはんこを押すという使い方をしているようです。が、訂正印ははんこ本体ではなく、はんこの跡(印影)の種類の一つです。
訂正印は押印を求められる書類において、間違えてしまった場合などに押印を求められているはんこと「同じはんこ」を押すことによって、この書面の作成者が訂正を認めたよ。という意味で押す印鑑です。
ですので実印での押印を求められる書面に実印とは別の「訂正印」というはんこを押しても、実印を押した人は訂正を認めていないので訂正は無かったことになります。そういう慣習なので単体としての「訂正印」というはんこ本体はありえないかと思います。
・はんこってどんな効力があるのか
さてこのはんこ達、押した際にはどんな効果があるのか。世間一般的にはきちんとその書面に書いてあることを認める。という意味で通常の署名などより強い効果を持つ、位の認識ではないかと思います。
あとは特定の印鑑が求められる場合があります、それが実印と銀行印ですね。これは特定の印鑑でないと効果が無いと言う特別の印鑑です。
でははんこを押す事の「法的な効果」はどうかというと。ざっくり言うと全部同じです。実印でも銀行印でも認め印でも全部同じ。以下の効力があります。
民事訴訟法 第228条1. 文書は、その成立が真正であることを証明しなければならない。
2. 文書は、その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認めるべきときは、真正に成立した公文書と推定する。
3. 公文書の成立の真否について疑いがあるときは、裁判所は、職権で、当該官庁又は公署に照会をすることができる。
4. 私文書は、本人又はその代理人の署名又は押印があるときは、真正に成立したものと推定する。
5. 第2項及び第3項の規定は、外国の官庁又は公署の作成に係るものと認めるべき文書について準用する。
っていう規定があるんですが、わかりづらいですよね。日本語で書いて欲しい。なので、凄くフワーッとした説明にすると「裁判では、あなたの持ってるはんこが押されてる書面はあなたが作ったと思うよ裁判所は」っていう規定です。有名な判例と合わさってそういう規定になっています。
すごい、裁判でのはんこへの信頼すごい。過剰、過剰な信頼。「はんこは大事だ→だから大事なはんこが押してある書面ははんこの持ち主が作ったはずだ!」っていう考え方。これが日本の法律、裁判の考え方。
ということを違う目線から考えると「押されているはんこの持ち主を証明できれば、はんこの持ち主が作った書類だということになる」ということです。契約した後に気が変わって「そんな契約俺はしていない!」と言っても、その人のはんこが押されていたらその人と契約したと裁判所は考えるわけです。
となると大事になるのが、押されているはんこが誰のものかを証明する事。
銀行では口座を作るときにはんこを登録してるので、そのはんこしか認めなければ所有者を証明できます。。
実印は裁判で役所に照会かければ、誰の所有か公的に証明できる→所有者は「俺が作った書類じゃない!」って言うのがかなり困難な状況になります。
認め印は効果が同じでも誰の所有なのか証明するのがムズカシイ。
効力が同じでも実質的に実印と認め印では影響が大違い。だから大事って言われるんだね、実印。
はんこには予想以上の効果があるとビックリしませんか。俺はした。どれだけはんこを信じているのかと。これだけ効力があると怖くなるレベル。
だから実印は偽造されないように一見読めない様な字体で細かく複雑に掘った物が多い→硬い(高級な)材質じゃないと細かく掘ったら壊れちゃう→硬い材質に細かく掘るのは技術がいる→高価。ってことになっていたわけだ。今まで、実印が高いのは印鑑業界の陰謀!とか言ってスミマセンでした。
だけどまぁ、今は機械の進歩とかで細かい加工もそんなに大変じゃないようになっている様に思うのですが、逆に偽造する方も色んな技術が高まっていて大変なんです。偽造されたはんこでも押された印影が同じだと元のはんこの持ち主が作った書類だと推定されます。そうなるともう大変。
偽造の危険が常に付きまとうはんこという文化。これからどうなるのか、私、個人的には結構まだまだ残っていくと思います。その理由は長くなったから次回、印影の種類の回で書きます。
どうぞよろしくお願いいたします。